はるめぐる
たまには遠回りしてみようか。
そんなことを貴方が言い、雪が溶けて歩きづらい歩道を、私はのろのろとついていきました。積もったときには美しかったであろう雪の白さが、人々の靴底に汚されて見る影もないのを、沈んだ心で見つめながら。
歩いている間に、またぞろ雪が降り始めました。無数の細かな結晶が風に乗り、前をゆく貴方と、私との間を限りない距離で引き離します。三歩先も見えません。涙が滲んで、体内の水までもが雪になりそうなほどです。貴方の背中を見失い、おろおろと伸ばした手が、温かく大きな掌に包まれたのが分かりました。
途端、雪の壁は、輝く美しい光の粒に変わり、貴方の笑顔が、私に向けられていました。
ご覧、と貴方が示した湖には薄く氷が張っていて、きらきらと陽光を反射しています。
あの下でも、生命が息づいているんだ。春がくれば、彼らはまた動き出すんだよ。
ああ、それはまさしく本当でした。私が歩いてきた雪道の下にもやはり同じように生命はいて、今は隠されていても、やがて再び動き出すのでしょう。
私はようやく頷きました。
春が来るのを、貴方とともに待ちましょう。世界は、限りなく優しいのですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます