第50話 俺の彼女は大罪魔妃じゃない

「エレナさんの傷は治しましたが、やはり聖剣で斬られた脚の方は無理ですね」


 アヴァロンさんはあれから付きっきりでエレナを宥め、治療してくれた。もちろん俺も一緒だ。


「そうですか、でも、俺が車椅子を押しますから、大丈夫です」


 もう、エレナと離れることは、一生ない。


 エレナを前線に出すこともない。


 俺はどこかで、エレナと肩を並べて戦える日を夢見ていた。魔界の深層で燦砂と戦ったとき、それは叶った。


 だが、今はそんなことどうでもいい。


 エレナと一緒に、平和に暮らせればそれでいい。


「アヴァロンさん、ありがとうございました」


「礼など不要です。寧ろ厄介な兄を消してくれて、私が感謝したいくらいです」


「そんな……アヴァロンさんにはいつも助けてもらってばっかりで……」


「確かにそうですね」


 アヴァロンは否定しなかった。


「カルネス王国の多くの人間は未だエレナ・メルセンヌを【大罪魔妃】と認識しています。これからお二人に待ち受ける試練は、生半可なものではありません。それでも私に頼らず、私に縋らず、私に祈らず、歩んでいってください」


 アヴァロンはそうとだけ言い残し、去ろうとする。


「待ってください!」


「何です?」


「俺もアヴァロンさんのように、強くなりたいです! 弟子にして頂けませんか?」


 俺が覚悟を決めて言うと、アヴァロンは珍しく、フッと微笑んだ。


「私、弟子は取らない主義なので。それとあなたは、もう一人で戦えるほど強い。ですからどうか、エレナさんとお幸せに。今度は、今度こそは、あなたがちゃんと守ってあげてください」


 アヴァロンは嬉しそうにそう言うと、一度も振り返らず旅立っていった。


「エレナ、辛かったろう。苦しかったろう。よく頑張ったよ。今度こそは俺が守り通してみせるから」


「いいの、ロッソ。私はあなたといられれば十分。人類最強のお嫁さんになる必要なんて、最初からなかった。こうしてロッソと日向ぼっこしてるだけで、幸せだった。それに早く気づければよかったけど」


「今からでも遅くないさ」


 もう、故郷には帰れない。


 だがもう俺は、多くを望まない。


 俺の彼女は大罪魔妃でもければ、人類最強の勇者でもない。


 エレナ・メルセンヌという少女だ。



                 完

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俺の彼女は大罪魔妃 川崎俊介 @viceminister

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