第44話  兄妹対決

「観音式【大自在天身】」


 アヴァロンは、青い肌で四本腕の神に変身する。


「武技【真数千手】」


 拳の連打が燦砂を襲う。それぞれの殴打が空気を押し出し、不可視の砲弾となって燦砂の身体を抉る。燦砂が穴だらけになるのも時間の問題かと思われた。


 だが、燦砂は鎖を放ち、螺旋状に渦巻かせる。


 紡錘系の盾と化した鎖は、内に秘める強大な魔力によってアヴァロンの攻撃を弾く。


「観音式【帝釈天身】」


 次いでアヴァロンは、雷神の姿に化ける。


「武技【インドラの雷霆】」


 アヴァロンが拳を突き出すと同時に、閃光が駆け抜ける。


「蔵出し【土蜘蛛】」


 燦砂が唱えると、鬼とも獣とも区別がつかぬ巨大な生物が顕現した。


 顕現できたのは一瞬だった。


 不殺を貫くアヴァロンはギリギリで攻撃を逸らし、代わりに燦砂の【鉄鎖】が化け物の巨躯を砕いてアヴァロンに迫った。


 燦砂は、盾と目くらましの兼用として、この生物を召喚していた。


「観音式【執金剛身】」


 金剛力士の姿に変身したアヴァロンは、鋼のような拳で鎖を弾き返した。


 だが、当然、燦砂に攻撃は届かない。


「無駄だよ碧。拳聖だかなんだか知らないが、俺に戦いを挑んで生き残った者などいない!」


「えぇ。だから、最初から勝つことなど考えていません」


 アヴァロンは右拳を構え、半身を引く。


「武技【不二均し】」


 アヴァロンは、自身最強の武技で建物に穴をあける。


 案の定、この建物自体が【蔵】だった。とんでもない堅牢さだったので、このくらいの技でちょうどよかった。


 アヴァロンは変身を三回繰り返し、最終的には少年の姿になって逃げ出した。


「逃がしたか……まったく。随分と小賢しくなったものだ。碧」


 燦砂は怒りに身を任せ、鎖を床に叩きつける。


「絶対に従わせてやるからな! 地の果てまで逃げても、また捕まえてやる!」


 燦砂は叫ぶ。


「この世は地の果てまで、俺の所有物なんだからな!」


 和国の都に、燦砂の大音声が響き渡る。


「この世界の存在しか知らないとは、憐れな衆生ですね」


 アヴァロンは全力疾走しつつも呟く。


「救ってあげますよ、あなたのことも」


 アヴァロンは決意を新たにした。

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