第37話 最終決戦

「ここで止めます! 異界召喚【東方浄瑠璃浄土】」


「重層結界【アペイロン】」


 両者の結界術がぶつかり、相殺される。


 アヴァロンの異界召喚は不発に終わった。


 まずい。


 二回続けて異界召喚を使ったら、アヴァロンは戦闘不能になる。


 もうここからは、俺一人でやるしかない。


「法力凝集【三鈷剣】。剣技【プロクス】」


 法力で作った剣で一撃必殺の技を繰り出すが、当然のごとく受け止められた。


「ホント、遅い技ね。昔っからロッソは、私よりどんくさかったしね。ま、そういうところも可愛いんだけど」


 エレナは三鈷剣を握りつぶし、パラパラと刀身を地面に落とす。


「でも、ロッソなら。ロッソならこんな私でも愛してくれるでしょ? 私がどんな姿になっても、勇者殺しの『大罪魔妃』になっても、愛してくれるでしょ? だって、」


 エレナは俺を抱き寄せる。


「私のことお嫁さんにしてくれるって、約束したわよね?」


 魔力のこもっていない、素直な言葉だった。


 だが、とてつもない執念と歪んだ愛を感じる。


 こっちの方が、精神的にキツイな。


 だが、もう折れないし、屈しない。


「あぁ、約束は守るよ。ただ、」


「ただ?」


「それはここを出てからだ」


 俺は渾身の魔力と法力を練り上げる。


「明王式【煌炎爆砕】」


 巨大な火柱が上がり、エレナを打ち上げる。そのまま、階層ごとの壁をぶち抜き、地上までエレナを押し上げる。反撃の隙など与えない。絶対にこの技は中断させない。


「操星術【アストラルシンクロナイズ】」


 俺は、ホーンブレアから受け継いだアストロラーベを掲げた。


 今は夜だ。しかし、このアストロラーベに込められた術式は、世界の裏側から太陽光を集め、強制的に「昼」を作り出す。ヴァンパイアにとっては致命傷のはずだ。


「あぁぁあああぁ!」


 エレナは悲鳴を上げる。


 いや、悲鳴がだんだん低い声になっていく。


 これは、魔王ペイヴァルアスプの断末魔か。


「ぐおおおおおっ!」


 ペイヴァルアスプらしき魔族の霊体が、こちらへ急降下してきた。


「炎魔法【フレアバースト】」


 俺は憎しみを込めて、ペイヴァルアスプの霊体を燃やし尽くさんとする。


「水魔法【メルティングレイ】」


 エレナの詠唱が響く。魔界中が凍り付く。


 ということは。


 まさか。


「エレナ、生きてるのか?」


「もっちろん! 私を迎えに来てくれて、ありがとうね、ロッソ」


 エレナ自身は陽光に焼かれずに済んだのか。


【メルティングレイ】は、周囲の水分から熱を奪い、熱線を放つ魔法。


 俺の炎魔法と合わされば、より強くなる。










「こうしてエレナと肩を並べて戦える日を、ずっと夢見ていたんだ」







 俺は万感の思いを込めて、エレナに微笑む。


「私もだよ、ロッソ」


 二人の挟撃によって、かつての魔王は跡形もなく消え去った。


 俺の長い戦いが、終わった瞬間だった。

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