第25話 弓聖ホーンブレア

 アヴァロンの名前を出すと、【拳聖】として有名なためか、すぐに通された。


「かの【拳聖】アヴァロンどのの武勇は聞き及んでいたが、まさかこんなにお若い御仁だとはね。驚いたよ」


 部屋に通され挨拶を済ませると、ホーンブレアはそう切り出した。


「しかし、そんなアヴァロンどのと、ルーベンのギルドマスターが一緒とは、どういうことだい?」


「いえ、大したご用ではありません。あなたの魔界での冒険譚を聞かせて頂きたいと思いまして」


「ほう」


 嘘は言っていない。この手の歴戦の冒険者にはすぐバレるだろうから。


 だが、本命はエレナに関する手がかりだ。


 アヴァロンの他心通も駆使して、言いたくないことまで含めて情報を引き出す。


「なぜ急に?」


「私、実はギルドマスターを退職して冒険者になろうかと考えていまして。これからギルド本部に退職届を提出して、アヴァロンさんと魔界に向かうんです」


 これも事実だ。俺は魔界にエレナを連れ戻しに行く。


「いいだろう。魔界について教えよう。あそこは知っての通り、危険かつ、人を狂わせる場所。精神面での強さも必要となる。第一層から一時も眠ることはできない。集団で狩りをするハウンドウルフの群れは狡猾だからね。第二層の主、グラムダルは別名【ぬいぐるみの王】。傷をつけられるとそこから身体が繊維質化していく。第三層は……」


 ホーンブレアの講釈はそれからしばらく続いた。大抵が既知の情報か自慢話だった。


 だが、話が第八層に差し掛かったとき、ホーンブレアは急に口をつぐんだ。嫌な沈黙が流れたので、俺が口を開く。


「まぁ、私は危険すぎて行く気にはなれないんですが、第八層はどんなところなんです?」


「第八層については語らないでおくよ。後輩冒険者の命を捨てさせたくないしね」


 勇者ジーグ一行なら、最深部まで行けるはず。あれだけ自慢話をしていたホーンブレアが敢えて語らないとは。やはり、何かあるな。


「私の幼馴染が第八層まで行ったかもしれないんですよ」


「それはすごいな。なんという名の冒険者だい?」


「エレナ・メルセンヌです」


 俺が告げると、ホーンブレアの表情が途端に変わった。まさか、シドからエレナのサルーテ侵攻について、情報を得ていたのか?


 いや、そうならそもそも俺など一瞬で殺されている。違う理由で動揺しているな。


「エレナ……メルセンヌか……そうか、君は彼女の幼馴染だったのか」


 ホーンブレアの声はどんどん小さくなっていく。何かに怯えているような様子だ。

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