第23話 諦めない
目が覚めると、馬車に揺られていた。
身体はぐったりと疲れている。あれからどれほどの時間が経ったのだろうか。
「気付きましたか」
アヴァロンが俺の顔を覗き込んでくる。
「早くあの街を発たなければならなかったのです。申し訳ないですがしばらく宿泊はできません」
そうか。サルーテの街があれだけ破壊されたのは、俺のせいだ。当然の報いだろう。
「『早く出て行ってくれ、お前たちは疫病神だ。それに、魔王の婚約者など置いておけない』とシドさんに言われました。してやられましたね。エレナ・メルセンヌの狙いは、あなたがこの国にいられなくなることです」
苦虫を噛み潰したような顔でアヴァロンが告げる。
「ならばちょうどいい。俺も魔界に直接出向くつもりだったからな」
「ちょうどいいなどと悠長なことは言っていられませんよ。一刻も早く手を打たなければ、このカルネス王国は焦土と化します。そうなれば、エレナ・メルセンヌとロッソ・アルデバランは、国賊となり一生追われるでしょう」
「いいさ、最悪、俺が自殺すればいいだけの話だ」
実際、エレナを連れ戻せなければそうするしかないだろう。アヴァロンに散骨してもらえば、エレナとて蘇生はできまい。
「簡単に自殺するなどと口にしないでください」
アヴァロンは、僅かに怒気を滲ませ呟く。
「幼馴染が既に人殺しの罪を犯していた。絶望する気持ちは分かります。ですが、あなたがエレナ・メルセンヌを信じなくてどうするのです? 連れ戻せる可能性を信じなくてどうするのです? 拭いきれない大罪を犯し、人々から非難されるだろうから、見捨てるのですか? 諦めるのですか?」
「そんなことは……そんなことは絶対にありえない!」
俺は意を決して叫ぶ。
俺はエレナに誰も殺させないために頑張ってきた。しかしエレナは既に勇者殺しの罪を犯していた。
だが、それがなんだというのか?
俺はエレナの婚約者だ。どんな時でも、どんな姿に成り果てようと、エレナを愛していることに変わりはない。
ギルドマスターの責務だとか、どうでもいい。
俺はただ、エレナと一緒にいたいのだ。それだけだったんだ。
罪を犯していたのなら、一緒に更生を目指して支え合えばいい。世界の敵とみなされるのなら、どこか遠くへ逃げて、二人きりで暮らせばいい。
王国民にエレナを傷つけさせないし、魔王軍の好きなようにもさせない。
ペイヴァルアスプの器にさせるなど、以ての外だ。
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