第22話 明王の炎

「エレナ、一緒に逃げよう! こんな奴らと一緒にいる必要はない!」


「貴様が! エレナ様に! 分かったような口を利くな!」


 無数の黒雷が落ち、俺の動きを縛ろうとする。だが、全て弾かれた。


「なに?」


 驚くロードフェニックスに向けて、俺は炎魔法を撃とうとする。すると、自分でも信じられないほど巨大な火柱が顕現した。


 まさか、法力を使いこなせているのか?


 そんなことはどうでもいい。


 何としても、エレナを連れ戻す。


 その想いだけで、俺は炎を纏った【金剛杵】を何度も振り続けた。


 気付くと、こめかみを思い切り殴られていた。そのまま吹っ飛び、俺は地に臥せる。


「驚きました。この短時間で魔力と法力のブレンドに成功するとは。まさしく、不動明王の炎のようです」


 アヴァロンだった。なぜ俺の邪魔をする?


「ですが、あなたには誰も殺させません! たとえ相手が魔族だろうと! 尊い命には変わりないのです!」


 見ると、ロードフェニックスの両翼は焦げ、瀕死の重傷を負っていた。


「あなたの身体も限界です。しばらくじっとしていてください」


「邪魔ね、アヴァロン。私のロッソに、私のロッソに近づかないでくれる?」


 エレナは玉座から浮き上がり、そのまま飛行してアヴァロンの首を絞める。だが、アヴァロンの平静を崩すには至らない。


「大した膂力です。ですが、もう時間切れでは?」


「そのようね」


 空が晴れていく。ロードフェニックスが弱ったことで、黒鳥たちを操り切れなくなったのか。


 今のエレナは太陽光に弱い。つまり、退却のときだ。


「また会いに来るからね。ロッソ。あなたが来るまで、何度でも」


「その必要はない、エレナ。もう無理して外に出なくていいんだ」


 俺は諭すように言う。婚約者同士が話し合うという、それだけのことだ。こんな大掛かりなことまでしなきゃならないなんて、おかしいじゃないか。


「なぜそんなことを言うの?」


「俺が、直接魔界に出向いて、エレナを連れ戻すからだ」


 それを聞いて、エレナは高らかに笑った。


 そのまま水龍の口に呑み込まれ、エレナは魔界へと去っていった。


 暫くすると水は消え、破壊しつくされた街だけが残った。

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