第17話 黒鳥の大群
街に戻ると、俺は剣がないことを思い出した。
「アヴァロンさん、刀とか持ってませんか?」
俺が問うと、アヴァロンは呆れたようにため息をついた。
「東方出身の冒険者なら刀の一つでも持っているとでも? 偏見ですね」
アヴァロンは表情こそ変えないが、不満げな口調だ。
「すみません。でも、前の戦いで剣が折れていまして」
「剣が無くても戦えるようにすべきですね。それが嫌なら、予備は5つくらい持っておくべきかと」
相変わらず手厳しいな。だがぐうの音も出ない。
アヴァロンはどんな時でも正論を言う人だ。
俺がエレナを殺す覚悟を決めたときも、容赦なく否定してくれた。この人がいなければ、俺は自分を見失っていたかもしれない。
『昔のエレナ』という虚像に縛られて、正しい判断ができなかったかもしれない。
そう考えると、感謝してもしきれない。
「あなたのその折れた剣、結晶が付着しているでしょう?」
言われてみればそうだ。剣の柄の部分に水晶のような宝石が付着している。
「東方浄瑠璃浄土は高濃度の法力が充満する異界。少しでも留まれば、そういった結晶体が付着します」
「それって、法力の塊ってことですか?」
「正確には、法力を宿した宝石の塊ですがね。触れれば法力を体内に取り込むこともできますよ」
俺は試しに結晶に触ってみるが、何も感じなかった。何か力が流れ込んでくる感覚があったり、宝石が発光したりするのかと思っていたが、何も起きない。
「……まぁ、法力は精神を鍛えなければ使いこなせませんからね。以前も言いましたが、うかつに魔力と混ぜると暴発しますから」
「もしうまく混ぜ合わせられれば……」
「とんでもない力を発揮します。法力は相手のいかなる属性の魔法にも影響を受けません。同時に、どんな属性にも染まり魔力を強化する作用もあります。もっとも、私は魔力ゼロなので実体験ではありませんが」
ならばアヴァロンの師匠か誰かは、魔力と法力を使いこなしていたのか。
「どういう条件で……」
「来ます」
アヴァロンは唐突にそうとだけ告げた。
次の瞬間、暗雲が立ち込める。
いや、これは黒雲などではない。
鳥の大群だ。
空を覆うほどのとんでもない数がいる。
斜め下に向かって急降下してくる。間違いなくこのサルーテの街に向かって飛んでくる。
「やはり、鳥系モンスターの討伐クエストの急増には、理由があったのですね」
アヴァロンのクエスト傾向分析にも、意味があったわけか。なんにせよ、もう手遅れかもしれないが。
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