第12話 ギルドマスターの責務
朝っぱらから轟音を立てて戦闘していたので、市民に事情説明をして回る羽目になった。
エレナのことはもちろん、魔王軍幹部の侵攻についても伏せた。そのうえで、闇に呑まれた冒険者を始末したと説明した。
「とんでもないことになりましたね……」
一緒に回ってくれたべスが呟く。
「あぁ、俺がこの街に居続ける限り、エレナは毎日分身を送ってくる。一か所に留まるような生活は、もうできないかもな」
「……そうですか」
べスは悲しげな顔をする。俺のことを案じてくれる部下がいるのはありがたい。だが、もう二度と大事な部下に傷を負わせるわけにはいかない。
「ロッソさんは、エレナさんを諦めないつもりですか?」
「そうだ。何があってもエレナを連れ戻す。それで結婚の約束を果たす。周りがそれを許さないなら、二人きりで隠遁生活でもするよ」
「でも、闇に呑まれた冒険者を処理するのも、ギルドの役目ですよね?」
確かにそうだ。エレナを殺さないことはギルドマスターとしての責務に反する。
「私、分からないんです。何が正しいのか。ロッソさんの大事な人は尊重したいけど、今までロッソさんが殺してきた冒険者たちも、誰かにとっての大事な人だったはずですよね?」
俺は、この前殺したバルカという冒険者のことを思い出す。確かに彼にも、大事な仲間がいた。
「そうだな。俺は、自分の婚約者だからという理由だけで、エレナを特別扱いしていることになる」
正確にはエレナは帰還者ではない。だが、だからといって殺さないのは、言い訳でしかない。
「ロッソさん、ギルドマスター辞めた方がいいんじゃないですか? あなたのような中途半端な覚悟しかない人に、務まる仕事だとは思えません。だから私と……」
べスは、震える声で俺を責める。
全くその通りだ。返す言葉もない。
「そうだな。王都の本部に行って、退職の届出をしてくるよ。エレナの救出に専念するためにも」
「ッ! そうですか。では救出、頑張ってください」
ベスは充血した目で俺を睨みつけ、逃げるようにして去っていった。
こうやって、親しかった人々もどんどん離れていくのだろう。だが、これは自分で選んだ茨の道。進むしかない。
何としてでも、エレナを連れ戻すしかない。
自宅は全壊したので、そんな決意を固めながら、俺は宿屋へと向かった。
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