体調不良

 翌朝、目を覚ましたユリアは体の怠さから起き上がれなかった。

「思った以上に疲れていたのかしら」

ため息をついたユリアはメイが起こしに来るまで眠ることにした。次に目を覚ませば少しは怠さもよくなっているかもしれない。そう思ったがすぐにメイが部屋に入ってきたため眠ることはできなかった。

「ユリア様、おはようございます。ご気分はいかがですか?」

「メイ、おはよう。少し怠いけど大丈夫よ」

大丈夫と言いつつ起き上がらないユリアにメイは心配そうな顔をした。

「ユリア様、実は昨夜ヒギンズ様にお話ししてお医者様に診ていただけるようにしましたので。ご気分が優れないようでしたら横になっていてくださいね」

メイの言葉にユリアは素直にうなずいた。

「ありがとう。ごめんなさいね。今日はキース様やルクナ公爵様がいらっしゃるのに」

「お気になさらずに。視察もありましたし、きっとお疲れなのですよ」

メイはそう言うとユリアに紅茶を用意した。

「お食事はどうなさいますか?」

「あまり食欲がないの。紅茶だけでいいわ」

食欲がないと言うユリアにメイは心配そうな顔をしながらうなずいた。

「私がいてはお休みになれないでしょうから下がりますが、何かあったらすぐに呼んでくださいね?」

メイの言葉に「ありがとう」と言ってユリアは目を閉じた。


 部屋を出たメイはそのままヒギンズの元へ行った。

「ヒギンズ様、少しよろしいでしょうか?」

王と王妃の食事の用意をしていたヒギンズは手を止めるとメイに目を向けた。

「どうしました?ユリア様に何か?」

「はい。今日もご気分が優れないようで、ベッドに横になっておられます。食事もいらないと」

「わかりました。食事の時間のあとに医師をお連れします。メイ、確認ですが、ユリア様は月のものは変わりありませんか?」

ヒギンズの言葉にメイは「あっ!」と声を出してしまった。その反応にヒギンズの顔が険しくなる。メイは慌てて頭を下げた。

「申し訳ありません!ユリア様はまだお若く周期的ではないこともあるとおっしゃっていたので見逃しました。ここふた月はきていません」

「ふた月。ふた月ではなんとも言えませんね。わかりました。陛下には私から報告しておきます」

ヒギンズの言葉にメイは頭を下げてユリアの部屋に戻った。


 ヒギンズは王の部屋に食事を運ぶと、ユリアの体調がやはり悪いようだと伝えた。

「食事のあと医師をお連れいたします。今日は休んでいただいたほうがよろしいかと」

「そうだな。あとで少し見舞おう。他の妃たちは問題ないか?」

「はい。他の方々は問題なく」

ヒギンズの言葉に王は安心したようにうなずいた。

「陛下、視察先でもユリア様に無理をさせたのではありませんか?ユリア様はまだ不慣れなのだからあまりご無理させないでくださいと言いましたのに」

王妃の言葉に王は言葉に詰まった。思い当たることがないとは言いきれなかった。

「陛下、しばらく夜にユリア様にお相手させるのは控えてくださいませ」

「わかった。気をつける」

少し怒ったような声の王妃に王は素直にうなずいた。ヒギンズはその様子に苦笑しながら紅茶の用意をした。

 ヒギンズはユリアの妊娠の可能性を伝えなかった。それはまだ不確定すぎること、デリケートな問題であることが理由だった。

「ヒギンズ」

部屋を出たヒギンズは王妃に声をかけられた。王妃はドアを閉めるとヒギンズに近寄った。

「なんでございましょう?」

「ユリア様のことです。もしかして、ご懐妊では?」

王妃の言葉にヒギンズは目を見張った。

「なぜ、そのような」

「なんとなく。女の勘です」

そう言って苦笑する王妃にヒギンズは苦笑した。女の勘とは本当に恐ろしい。

「まだ未確定です。ユリア様はお若く、月のものが乱れてもおかしくありませんし。医師が診てもまだわからないかと」

「そうですか。お医者様の診察が終わったら報告をお願いします」

「承知いたしました」

王妃の言葉にヒギンズはうなずいて一礼した。


 朝食の時間の後、ヒギンズは初老の医師を連れてユリアの部屋を訪れた。

「失礼いたします。ユリア様、お医者様をお連れしました」

「まあ、すみません」

寝室にいたユリアは体を起こしていたが、いつものような元気はなかった。心なしか顔色も悪い。ヒギンズは医師をそばに案内するとユリアに紹介した。

「陛下の侍医のオルガ先生です」

「お初にお目にかかります。オルガと申します」

「はじめまして。ユリアです」

オルガは皺が刻まれた穏やかな顔で微笑み頭を下げる。緊張していたユリアはその雰囲気に安心したように微笑んだ。

「では、先生。私は部屋を出ていますので」

「はいはい。お任せください」

うなずいてオルガは早速ユリアの診察を始めた。そばにはメイがついている。ヒギンズは寝室を出ると扉の前で診察が終わるのを待った。

 30分ほど経った頃、扉が開いてオルガが出てきた。

「先生、いかがでしたか?」

「ふむ」

声をかけられたオルガは扉を閉めると難しい顔をした。

「月のものは止まっているようですが、それが年齢やストレス故に止まっているだけなのか、妊娠によるものなのかはまだなんとも。疲れと暑気あたりということも考えられます。ともかく数日安静にするようにとお話しました」

「そうですか。妊娠を確定するにはどれほど様子をみれば?」

ヒギンズの問いにオルガは「少なくとも数ヵ月」と言った。

「妊娠を確定するには月のものが止まっていること。悪阻がでてくること。味覚の変化などありますが、産婆に診てもらう必要があるかと」

「わかりました。陛下にご報告します」

ヒギンズの言葉にオルガも一緒に行くと言うため、ふたりはそろって王の部屋に向かった。

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