御前会議

「そろそろ定刻となります。皆様お席にお着きください」

宰相の言葉で歓談していた貴族や大臣たちが各々の席につく。

「国王陛下のおなりでございます!」

騎士の言葉と共に貴族や大臣たちが入ってきたのとは別の扉が開けられ王が会議場に入ってくる。会議場にいた者たちは全員起立し頭を下げて王を迎えた。会議場に入った王が席につくと他の者たちも席についた。

「では、御前会議を始めます」

宰相の声で会議が始まる。まずは王から夏の視察についての話がある。その後、大臣たちからの報告があった。

「今年は今のところ雨が少なく、このままでは場所によっては水不足なる可能性があるかと思います」

「治水については各領主に任せているところではあるが、水不足になることは避けなければならない。井戸が枯れたり川が干上がったりしている場所はあるのか?」

環境大臣からの話に王が険しい表情で尋ねる。大臣は首を振ってそこまで緊急ではないと言った。

「現状水が不足している場所はありません。これから雨が降るかもしれませんし。ただ、後々のことを考えて大きな川から水を引く工事を行ってもよいのではないかと思います」

「ふむ。いざ水が足りなくなってからでは遅いからな。工事が必要な場所や予算など調べてまとめてくれ」

「ありがとうございます」

王の言葉に大臣は頭を下げて席についた。

「他に、何か議題がある方はいらっしゃいますか?」

宰相の言葉に恐る恐る貴族のひとりが手を上げた。

「あの、陛下の後継者について、先週も先送りだったと思うのですが…」

そう言った貴族は王がため息をつくと慌てて手をおろした。その様子から自発的に発言したというより、誰かに手を上げるよう言われたのだろうと思われた。

「その件については以前にお話があったと思いますが?現状、後継者は決定せず、キース殿下のご子息カイル様に帝王学を学んでいただく。今後陛下にお子が生まれたならばその方にも帝王学を学んでいただく。カイル様が後継者と決定された暁にはカイル様を陛下と王妃様の養子に迎える。これで皆様納得されたと思いますが?」

宰相の言葉に手を上げたのはギルドア侯爵だった。

「確かにそれで異論ありませぬ。しかし、そうなると現状後継者候補はカイル様おひとり。万が一のことがないとも限りません。後継者候補を増やされてはいかがでしょう?」

「増やす?しかし、陛下に近い方はキース殿下とルクナ公爵様だけでは?」

侯爵の言葉に議場がざわめく。侯爵はニヤリと笑うと手を上げて場を静めた。

「陛下にはにわかに信じがたいことかと思いますが、実は先王陛下の御落胤を保護しております」

「父上の?」

侯爵の言葉に王の表情が険しくなる。だが、王が口を開く前にルクナ公爵が口を開いた。

「ギルドア侯爵の領地はサヘル。王都から近くはないが、確かに兄上は狩りをするのによくサヘルを訪れていましたね」

「ええ。その狩りにおいでの際、我が屋敷の侍女を大層気に入ってくださって、先王陛下はいらっしゃるといつもその娘をそばにおいておりました。その娘は懐妊し、男児を生みましたが、先王陛下は城に迎えればいらぬ争いを生み、ふたりを危険にさらしてしまうからと我が屋敷にて保護し、育てるようにと命じられました。母親である娘は数年前に病で命を落としましたが、その御子は健康に育っております」

侯爵の言葉に矛盾するところはなかった。確かに先王は狩りが好きで、侯爵の領地をたびたび訪れていた。その時に王妃や妃を連れていったことはない。狩りは毎回数日かけて行われ、その間は侯爵の屋敷に滞在していた。侍女に手を出して妊娠させたとしても、先王の後宮がどのようなものだったか考えれば迎えられなかったのは当然と思われた。貴族の娘同士でもいがみあっていたのだ。侍女が妊娠して男児を生んだなどということが知れれば何をされるかわかったのものではなかった。

「侯爵のお話、筋は通っていますね。ちなみに、その子の年齢は?」

「今年で13におなりです」

その言葉にルクナ公爵は内心舌打ちをした。年齢的にも先王の子の可能性があった。

 先王が死んだのは5年前、狩りの途中で落馬したのが原因だった。先王の崩御に伴い、当時25歳だったリアムが即位した。そして後宮にいた王妃はリアムの母親であるということから離宮が与えられて移動し、妃たちはそれぞれの実家に戻されたのだ。先王は享年55歳。リアムが生まれたのは20歳のときだった。もし御落胤という子どもが先王の子なら47歳の時の子どもということになるが、ない話ではなかった。

「侯爵、なぜ今までそのことを黙っていた?そして、なぜ今この話をした?」

険しい表情で王が尋ねると、侯爵は悪びれもせずに「先王陛下のご指示です」と言った。

「失礼ながら、先王陛下の後宮は健やかとは言いがたく、後継者にはすでにリアム様がいらっしゃいましたので、このまま静かに穏やかに暮らさせたいとのことでございました。しかし、万が一リアム様がお子に恵まれず、王家の血が途絶えそうになった場合は、王家の一員として迎えるよう言ってほしいと、先王陛下は常々おっしゃっておられました」

「なるほど。今13歳であるなら私の次の後継者には十分というわけだな。ところで、その私の弟かもしれない子どもは、今日連れてきているのか?」

「王都の屋敷に連れてきております。陛下がお許しくださいますならば、今日の会議の後にでもお連れいたしますが?」

侯爵の言葉に王は眉間に皺を寄せた。侯爵がここまで言うならば、きっとその子は先王の子で間違いないのだろう。だが、問題は今までギルドア侯爵が育てていたということだった。

「わかった。では、今日の午後その子を連れてくるがいい」

「承知いたしました」

にこりと笑う侯爵に王は舌打ちしたい思いに駈られつつ、御前会議はあとは滞りなく終わった。

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