コクトの町

 休憩をはさみつつ、予定どおり翌日の昼前にはコクトの町に入ることができた。

 朝、天幕を片付ける様子を見たユリアがその手際のよさにまた驚きの声をあげる。手際の良さを褒められた騎士たちは普段ライルの厳しい指導しか受けておらず褒められ慣れていないため、どういう反応をしていいか困って赤くなってしまっていた。


 コクトの町に入るとリュカの町同様、道の両脇で人々が出迎えてくれた。コクトの祭りは日中行われるのか、すでに広間には屋台が並び、賑やかそうだった。

「ここも賑やかですわね」

「コクトの祭りは日中から夜中まで行われるからな」

「夜中までですか?」

ユリアが驚いて尋ねると、キースが「神事があるのです」と言った。

「鉱山の神に感謝を捧げる神事があるんですよ。それは夜にあの山で行われます」

そう言ってキースが指した方向には大きな山があった。山の麓にあるこの町は坂も多く、町の背にはすぐ大きな山がある。ユリアは山を見上げながら思わず唾を飲み込んだ。

「すごいですね。私、こんなに迫力のある山は初めてです」

「神様がいると言われても納得してしまいますよね」

ユリアの言葉にカイルがうなずく。王とキースはそんなふたりに微笑んだ。


 コクトの領主、カスツール子爵の屋敷につくと、子爵と子爵の息子が出向かに出ていた。子爵はユリアの父と同じくらいの年齢だが、その息子はユリアよりも若かった。それは長年独身だった子爵が若い妻をもらったためだったが、その妻は数年前に病死していた。

「陛下、ようこそおいでくださいました」

子爵は満面の笑顔で一行を出迎えた。

「子爵、世話になる」

「カスツール子爵様、お久しぶりでございます」

「おお、ユリア様、お久しぶりでございます。ギルバート殿もご一緒でしたか。ご子息とご息女が陛下のおそば近くにいて、ユステフ伯爵はさぞ誇らしいことでしょう」

子爵の言葉にユリアが微笑み、ギルバートが軽く会釈する。子爵は一行を屋敷に迎え入れると応接室に案内した。

「皆様お疲れでございましょう。まずはひと休みなさってください」

「子爵、そちらは子爵の息子か?」

子爵のそばについて歩く少年を見て王が尋ねる。子爵はうなずくと息子を前に出した。

「息子のイワンです。少々人見知りではありますが、私の自慢の息子です」

「はじめまして、イワンと申します」

イワンがおどおどした様子で挨拶すると、王は微笑みながらうなずいた。

「イワンか。カイルと歳が近そうだな」

「イワン様、カイルです。よろしくお願いします」

王の言葉にうなずいてカイルが挨拶すると、イワンは視線を泳がせながら「よろしくお願いします…」とうなずいた。


 祭りの視察は午後行くことになり、一行は子爵たちと昼食を摂った。ドルマルク男爵の屋敷では娘たちを妃にしようと色々画策されたが、カスツール子爵に娘はいない。その点だけでも子爵の屋敷は居心地がよかった。

「子爵、鉱山の採掘は順調か?」

「はい。しかし、最近採掘量が少しずつ減っております。新たな場所を採掘するべきか、皆と相談しています」

「それは、大変ですね」

子爵の話にキースが心配そうな顔をする。だが、王は険しい顔をした。

「子爵、以前も話したが、鉱山は無限ではない。いずれ掘り尽くす。採掘量が減ってきたというのは、残っている鉱石が少なくなってきたということだろう。鉱山に変わる収入源を考えるべきと思う」

「そうは申されますが陛下、この土地は野菜や果物の栽培にはあまり向きません。自分たちで食べるものはなんとかなりますが、他の領地に売れるようなものは採れません」

「確か、コクトの方々は狩りがお得意だったと記憶しているのですが、いかがでしょうか?」

声をあげたのはカイルだった。子爵が驚きながらうなずく。カイルは「それなら」と自分の考えを言った。

「毛皮を産業にするのはどうでしょうか?加工して襟巻きやコートにしたりすれば、他の領地に売ることもできるのではありませんか?」

「それは、確かに…」

カイルの提案に子爵は思案げな顔をした。

「父上、良い考えだと思います。今でも毛皮は簡単ではありますが冬用の衣類に加工していますし。デザインや装飾をもっと工夫して、きちんと売り物にするといいと思います」

カイルの提案にイワンが自分の考えを付け加える。子爵は驚きながらもうなずいた。

「そうだな。それは今まで考えなかった。町の皆と話し合ってみるとしよう。陛下、カイル様、ありがとうございます」

「いえ、お役にたてたなら幸いです」

「イワンは優秀なようだな。よく勉強しているようだ」

「ここの人たちが豊かに暮らせるようにと思って…」

王に褒められてイワンが恥ずかしそうにうつむく。人見知りではあるが、自分の考えをしっかり持って、領地のために色々考えているようだった。

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