始めての晩餐と初夜
夕食前、ユリアはメイに言われて着替えをした。着せられたのはクローゼットに入っていたユリアが持ってきたものとは違うドレス。薄いピンク色のドレスは若いユリアによく似合っていた。髪を軽くセットしたユリアはメイに案内されて広間に入った。
広間にきたのはユリアが最初だったらしくまだ誰もいない。メイに促されるまま一番端の席につく。そのまま少し待っていると、3人のお妃様たちがやってきた。
美しい黒髪をゆったりと巻いているのが最初に妃になったカリナ・エスティナ。ストレートの金髪を高い位置で結っているのがイリーナ・メディナ、そして癖のある金の髪を肩につかないくらいで切り揃えているのがエリス・スォードだ。3人の妃たちが入ってきたのを見てユリアは立ち上がった。
「はじめまして。ユリア・ユステフと申します」
緊張して少し声が震えてしまう。どうにか挨拶して頭を下げると、3人の妃たちはそれぞれに笑みを浮かべた。
「はじめまして。私はカリナよ。今日からよろしくね」
「私はイリーナ。ドレス、よく似合っているわ」
「エリスよ。仲良くしましょう」
3人それぞれに挨拶をしてくれる。その様子にユリアは少し驚いた顔をしてしまった。
「そのドレスはね、王妃様がお選びになったのよ」
「え、そうなのですか?」
驚いてユリアが尋ねると、ちょうど王と王妃が広間に入ってきた。3人の妃たちが頭を下げて2人を迎える。ユリアも慌てて頭を下げた。
「遅くなってすまなかったな。少し会議が長引いた」
王が席についたことで妃たちも着席する。穏やかに微笑む王の隣で、王妃は謁見の間と同じように無表情だった。
「陛下、ご公務でお疲れでございましょう。今宵は新たな妃もいらっしゃいましたし、晩餐は早々にお開きでしょうか?」
微笑みながら王に話しかけたのはカリナだった。3人の妃の中では1番長く後宮にいる彼女はやはりどこか堂々としていた。
「そうだな。ユリアも色々と疲れたであろうしな」
王の言葉にイリーナとエリスがクスッと笑う。後宮に入ったユリアの元には今夜、王が通うことになっているのだ。
王が食事を始めると王妃や妃たちも食事を始める。あまり会話はないが、それほど険悪なムードでもなく、ユリアは初めて食べる料理の数々に目を輝かせた。
そうして食事を終えてそろそろ各自部屋に戻ろうというとき、ユリアは思いきって王妃に声をかけた。
「あの!王妃様、このドレスは王妃様がお選びくださったと聞きました。ありがとうございました」
緊張して声が上ずってしまったユリアに王妃は無表情のまま視線を向けた。
「いいのよ。礼には及びません」
それだけ言って王より先に退室してしまう王妃。王はやれやれと苦笑しながら後に続き、妃たちもそれぞれ退室していった。
残されたユリアは王妃はいったいどんな気持ちでこのドレスを選んだのだろうと思うと胸が苦しくなった。
「ユリア様、お部屋に戻りましょう?」
見かねたメイがそっと声をかける。ユリアはうなずくと広間を出て部屋に戻った。
部屋に戻ったユリアはメイと数人の侍女に風呂に入れられた。王との初夜を迎えるための準備である。体を隅々まで洗われて全身に薔薇の香油を塗られる。初夜を迎えるにあたっては白い夜着が習わしだとのことで、肌が透けるほどの薄さの真っ白なドレスを着せられたが、下着をつけることは許されなかった。
「メイ、私、どうしたらいいの?」
何か閨での作法などあるのかとメイに尋ねると、メイは微笑んで首を振った。
「ご心配には及びません。全て陛下にお任せください」
「でも…」
「そろそろ陛下がお渡りの時間です。私たちは下がらせていただきますね」
時計を見たメイが侍女たちと共に退室する。ユリアは心細く思いながらベッドに腰かけた。
「おや、待たせてしまったかな?」
王がやってきたのはそれからほどなくしてだった。ベッドに座っていたユリアが慌てて立ち上がり膝をつく。王はクスッと笑うとユリアの手をとって立たせた。
「そんなことをする必要はないよ」
「…はい」
「怖いか?」
王の問いにユリアは答えられなかった。本当は怖い。体が震えてしまうほどに。けれど、嫁いできた身で初夜が怖いなどとは口が裂けても言えなかった。
「大丈夫。優しくするよ。痛いのは最初だけだ」
穏やかに、優しく微笑みながら王がそっとユリアに口付ける。初めてのキスに頭が真っ白になったユリアはそのままベッドに運ばれ、蕾の体は王の手によって小さな花を咲かせた。
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