誰がオヤジをパパなんて!! #誰パパ

霜月サジ太

誰がオヤジをパパなんて! プロローグ

人生何が起こるか分からないとはよく言ったもので。




 10歳の少年浅木青磁あさぎせいじは、親の都合で転校が多いためなかなか友達ができず寂しい思いをしていましたが、そんな弱い自分を悟られたくなくクールに装ってしまう癖がついていました。


 そのためクラスに馴染めず孤立することの多い日々でしたが、ふとしたきっかけから隣の席になった藤村咲ふじむらさきと少しずつ心を通わせることになります。


 ちょっとだけ学校が楽しくなったある日、興味本位で立ち入った森で不思議な光に包まれ気付けば剣と魔法の異世界にいました。異世界転移してしまったのです。






 ここまではよくあるお話。まぁ、焦ってはいけません。


 プロローグ続きます。






 困ったことにアサギは異世界転移すればついてきそうなチートスキルの類は一切持たず、聖都近郊のスラム街でひもじい、さみしい思いをしながらやっとの思いで一日一日を過ごしていました。


 ある日、運よく盗賊団の首領に拾われ生きるための知恵と盗賊の技術を教え込まれました。物乞いするかごみを漁るしかできなかった子供が学ぶことでぐんぐん成長する姿は首領はじめ周りの者にとって微笑ましいものであり、本人にとっては生き甲斐ができたようでした。なにより、辛くて寂しくてたまらなかった毎日から貧しくても仲間に囲まれた暖かい日々へと変わったのが彼にとって大きな救いになっていました。




 盗賊に拾われてから5年ほど経ち15歳になったアサギは、ある日仲間と一緒に貴族の屋敷へ忍び込みます。


 警備に見つかってしまい脱出する中、仲間をかばって捕まるアサギ。地下牢に繋がれ処刑を待つばかりの身を救いだしたのはアサギを捕らえた張本人。警備に雇われていた舞剣士ソードダンサーの少女、ヒナでした。


 賊を捕まえたのに、取り逃したほうの責任だけを問われ捕まえた報奨金を貰えないと知るや契約を解除、腹いせにアサギを逃がしてしまおうと緋色の髪をもつ少女は考えたのでした。




 ヒナと共に脱走するも見つかってしまい絶体絶命。そんな二人を助け出したのは、アサギと同じく異世界転移してしまった後、4年の修行の末に魔術師になった咲だったのでした。


 咲はまたヒナの友人でもありました。咲の助けを借り聖都を脱出後、二人は彼女に見送られヒナが憧れているという伝説の勇者様を探す冒険の旅に出たのです。




 幾多の困難や衝突を乗り越え、2年の歳月の間には良き仲間であり良きパートナーの関係になっていました。しかし、順風満帆とはなかなかいかないもので。ふとしたすれ違いから二人の間に溝ができてしまいます。


 お互い相手に求めるばかりで与えることを忘れてしまったために間柄を修復することは叶わず。心が持たなくなってしまったヒナは邪教集団からその潜在能力に目を付けられそそのかされて魔力を暴走させてしまいます。


 ヒナを止めようと必死に立ち回るアサギでしたがどうにもならず、その力に当てられてしまい、こともあろうに女の子にTSしてしまったのでした。




 困ったときの藤村咲。再び二人のピンチに駆け付けた咲と共にヒナを助け出そうとするアサギでしたがうまくいきません。TSしたことで体にまだ馴染んでいなく力が十分に発揮できないのでした。


 助けに入った咲もまた、ひそかに想いを寄せていたアサギがTSっ娘になったことに動揺を隠せず、得意の魔法を放つのに集中できないでいました。


 そんな精神状態では魔獣の如く暴れまわるヒナを助けることなどできるはずも無く、なにをしても焼け石に水。もはやこれまでかと諦めかけたとき、颯爽と現れたのがヒナが探し求めていた勇者こと萌木=シャルトリューズ。通称「萌シャル」。




 圧倒的な力で一度はヒナの暴走を収めたものの邪教徒の計略で再びヒナは暴走、萌シャルは自分の力を投げうってヒナを食い止めるもののあまりの力の強大さに制御しきれずヒナとともに消滅してしまいます。間際に「君たちの世界で待つ」とアサギと咲に言い残して。


 邪教徒たちを捕らえ懲らしめた後、ヒナと萌シャルの魔力の衝突により発生した時空の歪みの前に立つアサギと咲。そこに入れば萌シャルが待つといった「君たちの世界」――元居た世界に帰れるのではないかという考えに至った二人は意を決して飛び込んだのでした――。






















「うー……ん」


 浅葱色の髪をした少女が、目を覚ます。


 ゆっくりと瞼を持ち上げると青磁色の大きな瞳が木漏れ日に照らされて輝く。




「ここは……」




 木々が生い茂っている。森……?


 仰向けの状態のまま目玉だけを動かす。体が重く、動ける気がしない。疲れて動きたくないというのもある。


 視界の端に藤紫色の髪が見える。きっと咲だ。それ以外はあり得ない。


 元の世界に戻れるかもしれないという光の中に一緒に飛び込んだからだ。巻き込んでしまった。無関係なのに。助けてもらった上に巻き添えにしてしまった。彼女に助けられたのは何度目だろうか、と記憶を辿る。




「う……ん……」




 静寂の森の中に、かすかに、でもはっきりと声が聞こえた。心が癒されるようなウィスパーボイス。それは藤村咲の声だ。よかった、気が付いたのか。と安堵のため息をつく。




「アサギ君……?」




 不安そうな声で呼びかけられた。咲もまた体を動かせずにいるみたいだが、アサギと違い横向きになっており丁度アサギに背を向けるような姿勢になっている。




「ここにいる……ぜ……」




 なんとか声を絞り出す。必死だったから分からなかったが、思っていた以上に体が疲れている。




「よかった……またいなくなっちゃうのかと思った……」




 後半は涙声だった。




「いるよ、ちゃんと」




 返事を返すと、咲はうん。と返してくれた。


 そこまで聞くと安心したのか眠気が襲ってくる。




 抗いきれず、目を閉じる。


 ヒナは、萌シャルは、本当にこっちの世界にいるのか。


 そんな疑問より眠気のほうが勝り瞼を閉じる。




 あとで考えよう……

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