第26話 戦いの決着

 窪地にいたエミリーはすべてを見ていた。巨大火の玉が戦っている2人を直撃する。そうなれば2人とも魔法の火に焼かれて消滅してしまうだろう・・・。父の危機に彼女の心は大きく動揺していた。

「パパ!」彼女が叫ぶと同時にその小さな体が輝いた。王家の血に秘められた大きな力が働き、強力な魔法が発動した。

「グググ・・・!」巨大火の玉は途中で動きを止め、そして大きく揺らいだ。

「な、なんだ!」ウイッテは驚いた。自分の魔法を妨害する者があるとは・・・。そんなことができるのはあの方と女王ぐらいしかいない。一体誰が・・・そう思いながらも巨大火の玉を何とか操ろうと力を込めた。だがそれはピクリとも動こうともせず、形がゆがんだかと思うと、突然、

「ドッカーン!」と爆発した。その爆風でリーカーやトンダ、そしてウイッテは弾き飛ばされた。リーカーはなんとか転がって窪地に身を隠した。しかしトンダはまともに爆風を受けて丘にまで飛ばされて地面に叩きつけらた。

「うぐっ・・・」彼は声を立てて動かなくなった。ウイッテは空中に飛ばされていたが、すばやく呪文を唱えてそこから姿を消した。

 煙が晴れた後は、窪地に身を隠したリーカーとエミリーだけになっていた。リーカーは痛む体をなんとか立たせた。

(何とか助かった。しかしあの巨大火の玉を止めて爆発させた強力な魔法はどこから・・・)彼の前にはエミリーしかいなかった。

(エミリーが? まさか・・・いやエミリーは魔法の王家の血をひいている。それはあり得る。)リーカーはそう確信した。しかし魔騎士の待ち伏せがあった以上、ここにいるのは危険だった。他にも騎士が襲って来るかもしれないし、マークスの動きも気になる。

「行くぞ! ここにいると危険だ!」とエミリーに言った。エミリーはうなずくと2人はそのまま裏街道を進んでいった。



 マークスたちがその戦いの場所に着いたのはかなりしてからだった。地面に激しく乱れ壮絶な爆発があったことを思わせた。

「遅かったか・・・。トンダはどこに?」マークスは辺りを見渡した。すると丘の上にボロボロになったトンダが倒れているのが見えた。横にいたミラウスはすぐに馬から降りて駆け寄った。

「トンダ! しっかりしろ!」ミラウスはぐったりしたトンダを抱き上げた。

 だがトンダはすでに息を引き取っていた。その顔は苦しみにゆがんでいた。

「リーカーめ!」ミラウスは怒りが沸き起こってくるのを感じていた。それは理性では押さえきれない程、膨らんできていた。マークスも馬から降りてその亡骸のそばに来て片膝をついた。

「トンダ! お前の死は無駄にはせぬ。」彼は沈痛な面持ちで手を合わせた。



 エリザリー女王の寝室にそっとサランサが入った。女王は相変わらず、意識がもうろうとしてぼうっと天井を見ていた。

「ここはいいから少し外しておくれ。」サランサはそばにいる女官に行った。

「では・・・」すべての女官が寝室から出て行った。それをサランサは確認すると白フクロウを取り出した。

「女王様。お聞きください。エミリー様からです。」サランサはそっと白フクロウを撫でた。

「エミリーは大丈夫です。女王様、お元気になられてください。」エミリーの声で言葉を伝えた。サランサはじっとエリザリー女王を見た。だが何の反応も起こらなかった。

(これでもだめなのですか・・・。一体、どうしたら・・・)サランサはため息をついた。すると女王の目が動き、

「エ、エミリー・・・」とかすかにつぶやいた。サランサは、

「そうです。エミリー様からです。エミリー様は生きておいでです。しっかりなさってください。」と声をかけた。

「エミリー、エミリー・・・」エリザリー女王は何度も声を出した。

「ええ、エミリー様です。女王様がお元気になられるのをお待ちしているのです。」サランサはうれしさで涙がこぼれた。



 ウイッテは巨大火の玉の爆発から何とか逃れることができた。しかしその衝撃で体を痛めていた。

「おのれ! リーカーめ!」ウイッテはうめいた。だが彼には何が起こったかわからなかった。リーカーたちにぶつかって燃えつくすはずだったのにいきなり大爆発するとは・・・こんなことは考えられなかった。

 その時、また光が差し込んで人の姿が浮かび上がった。

「ウイッテ。どうなっておる? リーカーは仕留めたのか?」

「申し訳ありませぬ。あと一歩のところで手違いが生じました。この次は必ず。」ウイッテは答えた。

「もはや待てぬ。もし次に失敗しるようならお前の命はない。」その声は厳しくウイッテにのしかかった。

「それは・・・いえ、今度こそこのウイッテがリーカーを亡き者にいたします。ご安心ください。」冷や汗を流しながらウイッテは言った。

「では次はないぞ」その言葉を残して人の姿は消えた。

「くそ! 次こそリーカーの命を止めてやるわ!」ウイッテはそう叫んだ。

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