第2話 殺された妻
リーカーは今朝のことを思い出していた。そこには明るい幸せな家庭があった。今の彼にはそれはもう遠い過去のように思われた。
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空は晴れ渡り、すがすがしい朝だった。
「では行ってくる。」家の玄関でリーカーは言った。これから彼はまた山の修練所に向かうところだった。
「あなた、行ってらっしゃい。」妻のアーリーが玄関に見送りに出ていた。
「私は魔法剣士となってくる。そして女王に仕えることになる。ゆくゆくはお前のために、未来の女王のために力を尽くすことになる。」リーカーが言った。
ビンデリア国は魔法使いのエリザリー女王が統治していた。そしてその女王を支えるのは魔法力と剣の力を持つ多くの魔騎士と言われる魔法剣士たちだった。
彼は大恋愛の末、エリザリー女王の一人娘アーリーを娶った。継承権からいえば彼女は次の女王になるはずであった。そのためビンデリア有数の剣士だったリーカーは、新たに魔法の修行をして魔法剣士になろうとした。将来の女王のアーリーを支えるために。
「パパ!しっかりね。」5歳になる娘のエミリーも玄関に出ていた。
「ああ、エミリーもママのいうことを聞いて、おとなしく待っているんだ。」リーカーはかがんで笑顔で言った。
魔法の修行はすでに終わっていた。後は最終試験を残すのみだった。
リーカーは剣を構えた。辺りは不気味に静まり返った。何かが迫ってきている気配はあった。すると突然、
「グオー!」と化け物の大蛇が現れてリーカーを一飲みしようと大きな口を広げた。
「***
リーカーは剣を振るった。するとその大蛇は一刀両断され、姿を消した。
「見事だ!」年老いた魔法使いが手を叩いていた。
「これで修行は終わりだ。ジェイ・リーカー。お前は魔法剣士になった。この力で女王を支え、このビンデリアに平和をもたらすのだ。」魔法使いは厳かに言った。
「はっ。この命にかけましても私に与えられた使命を全ういたします。」リーカーは片膝をついて頭を下げた。
「お前にはこの魔道剣を授ける。この剣はお前を大いに助けてくれるだろう。ただしこの剣の魔力を使いすぎると
「はっ。肝に銘じます。」リーカーはうなずいた。
リーカーは魔法剣士になって大きな喜びに包まれていた。それを妻のアーリーと娘のエミリーにいち早く伝えようと家に走って戻ってきた。ところが家の様子を見てリーカーは愕然とした。
門は破られ、家のドアは開けっ放しで中は荒らされていた。何者かが侵入したようだった。
「アーリー! エミリー!」血相を変えたリーカーは家の中に入っていった。すると血を流したアーリーが倒れていた。
「おい! しっかりしろ! 何があったんだ!」リーカーはアーリーを抱き起こした。アーリーは虫の息だったが、リーカーの顔を見て安堵の表情が浮かんでいた。
「あなた・・・いきなり剣士たちが・・・」アーリーは息も絶え絶えに言った。
「剣士がどうした? エミリーは?」リーカーは必死の思いで訊いた。
「急に襲ってきて・・・魔法で結界を張っても破られて・・・エミリーを天井に隠して・・・私、いえ、エミリーは狙われています。」アーリーはリーカーの目を見つめて言った。
「どうして!」リーカーは動揺して声を上げた。
「あなた、エミリーを守ってください。エミリーを・・・」アーリーはリーカーの腕をしっかりとつかんで訴えた。そしてそこでこと切れた。
「アーリー! しっかりするんだ! アーリー!」リーカーは呼び続けたが、アーリーはもう目を開けることはなかった。彼女はリーカーの腕の中でそのまま冷たくなっていった。
「アーリー・・・」リーカーは深い悲しみを覚えていた。しかしいつまでもそうしてはいられなかった。リーカーはアーリーの亡骸を下ろすと、
「エミリー! 聞こえるか? パパだ!」と天井に声をかけた。
「パパ・・・」上の方から声が聞こえた。
「エミリー! 無事だったか!」リーカーは天井の板を開けた。そこには目を赤く泣きはらしたエミリーの姿があった。音を立てまいと口を押さえ、流れる涙を必死にこらえていた。アーリーの魔法とエミリーの頑張りで、襲ってきた剣士たちから何とか隠し通せたようだった。
「怖かっただろう。もう大丈夫だ。よく我慢した。」リーカーはエミリーを下ろした。床に下りたエミリーに、変わり果てた母の姿が目に入った。
「ママ!」エミリーはアーリーの亡骸のそばに寄ると、こらえていた涙を流した。
「エミリー・・・」リーカーはエミリーの肩を抱いてやることしかできなかった。
(一体、どうしてこんなことに! アーリーを殺したのは誰なんだ! 許さぬ・・・)リーカーに悲しみとともに激しい怒りが込み上げてきた。こんなことをした者に復讐したい衝動に駆られていた。
その時、
「やはりここにいたか!」いきなり声が聞こえた。リーカーが前を見ると、見知らぬ数人の剣士たちが立っていた。エミリーがどうしても見つからず、リーカーの帰りを魔法で隠れて待っていたようだった。彼らは剣を抜いてリーカーに近づいてきた。
「お前たちか! 妻を殺したのは!」リーカーが大声を上げて右手を伸ばした。すると剣が飛んできて、その右手にしっかり握られた。それは授けられたばかりのあの魔道剣だった。
「そうだ。死んでもらおう。」その剣士のリーダーらしい男は言った。そしてその男は呪文を唱えた。すると多くの刃物が飛んできて、リーカーに襲い掛かってきた。
「カーン!カーン!」リーカーは剣でそれらをはじき落とした。
(魔法を使うとは! 魔騎士と魔兵? まさか!)リーカーは心に浮かんだことが信じられなかった。
「少しはできるようだな?」リーダーの男は言った。
「貴様は魔騎士なのか? それならなぜ我らを?」リーカーは疑問をぶつけた。
「それはどうかな? ふふん。知らずに死んだほうが身のためだ!」その男は後ろにいる剣士たちに合図した。すると剣士たちは魔法で剣をムチのようにしならせながら襲い掛かってきた。
(剣の腕は自信があるが、魔法はまだまだ。しかしここで討ち取られるわけにいかぬ。)リーカーは振り下ろされる剣を避けて
「***
呪文を唱えた。すると彼の姿は急に消え失せた。剣士たちは一瞬、動揺して辺りを見渡した。その隙をついてリーカーは現れた。
「***
リーカーは呪文を唱え、剣を素早く振り回し、一瞬のうちに斬りつけた。
「ドサッ!」大きな音がして剣士たちたちはすべて床に倒れていた。
「なかなかやるようだ。さすがビンデリア一の剣士と言われたリーカーだ。しかし次はそうはいかんぞ!」リーダーの男が呪文を唱えて剣を構えた。するとリーカーには周囲の光景がゆがんで見えてきた。そしてあちこちから剣が向かってくるように見え、リーカーは剣を振り回した。敵の魔法はこちらの自滅を待っているようだった。
(これは幻影魔法!見てはならぬ。)リーカーは目を閉じた。そして敵の気配を探った。
「目をつぶりよったな! これで貴様も終わりだ!」男はリーカーの背後から剣を振り下ろした。
だがその気配を一瞬、早く感じたリーカーは振り返って
「***
を放った。その強烈な一撃はその男を倒した。目を開けると男は恨めしそうにこちらを見ていた。
「しくじったか・・・だが俺を倒しても変わらぬ。貴様たちは別の者に殺されるだけだ。」男はそう言うと倒れて動かなくなった。
「パパ・・・」エミリーが不安そうにリーカーを見た。リーカーは膝を落としエミリーの目を見ながら言った。
「よいか。我らにはもう道がない。これから自らの力で切り開いていくしかない。」
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リーカーは今日の出来事を思い出していた。あれからリーカーとエミリーは家を出て森の方に逃げた。家を襲って来たのは、正体を隠していたものの魔騎士と魔兵に違いなかった。そしてその後も魔騎士と魔兵が2人を襲ってきた。自分を妻殺しの反逆者として・・・。どうして奴らが・・・何のために・・・疑問はつきなかった。
「うむむむ・・・」そのうちリーカーは右腹に鋭い痛みを感じるようになっていた。右手で触れるとそこは岩のように固くなっていた。
(これが代償か・・・。魔道剣の
(この身がどうなろうとエミリーを守らねば。)リーカーの決意は揺るがなかった。
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