嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘口

エリー.ファー

嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘口

  嘘をついた、この木に向かって。

 怒らないから嘘をついた。

 木は私の嘘を受け止めて、一切動こうとはしない。それは、私以外の誰かの嘘も受け止めて生きているかのようだった。暇人が近づいて、小さく呟く愚痴の一つや二つ、三つ、四つ、百、千。それらすべてを養分にしているかのような木である。

 茶色いと言えば普通だが、枝が一切ない。葉もないのである。けれど、生命力にあふれている。動きこそないが、犬や鷲、シャチのようなどう猛さを抱えているように見える。

 私はそこに安心してしまう。

 自分よりも大きな存在であるということは、私のように少しのことで感情が高ぶる存在ではないと思えるからだ。

 私は受け止めてもらえるだろう。そんな淡い期待を持ってしまう。

 木は、春、夏、秋の間はそのままである。

 冬になると姿を必ず消すのである。理由については全く分かっていない。誰かがその木を移動させているとか、木自体が動いているとか。そんな憶測が飛び交う。

 しかしながら、春になると。

 誰もが見ていない隙を狙うかのように木は元に戻っている。どうやって出現したのかは一切分からないのだ。

 昔、この木は神であると呼ばれた。

 しかし。

 神の周りにあった町は次々に滅んだ。

 原因不明の流行り病。村人たちが気を病み殺し合い。雨が一切降らない。作物が嵐に襲われて実をつけることもできない。神隠しが頻発する。

 一人、逃げる。三人逃げる。十人、逃げる。

 逃げていない村人の方が少ない。

 残った意固地な村人は、夜、寝静まった頃だろう。

 家に火を放たれて焼け死んだ。

 犯人は、分かっていない。きっと、逃げていった村人の中にいる誰かだと思われるが。

 証拠はない。

 木は残っている。

 たまに遠くの村に住む村人たちが、その木の近くにいって、何かを喋って帰るようになる。おまじないなんだそうだ。そうすると、その木が悪いものは、すべて吸い取ってくれるのだそうだ。

 喋る内容によって効果が違うらしい。

 調べた方がいい。

 しっかりと情報の共有をしよう。

 もしかしたら、喋ってはいけない話題もあるかもしれない。

 利用しよう。

 安全に活用して利益だけもらおう。

 リスクは必要ない。リターンだけでいい。

 そうしているうちに、木の周りには人が集まる。

 雪の降る朝のことだった。

 地震だった。

 木の周りにいた人は、一人残らず地割れの間に落ちていった。誰も助からない天災。

 もちろん、木は生き残った。

 数年後。

 今に至って、私の物語。

 私は仲間の制止を振り切って、木のところへ行く。そして、木に口をつけて嘘をつく。

 きっと、私だけではないはずだ。多くの人が見つからないように、こっそりとやっているに違いない。

 この木に向かって嘘をつくと、決まってあることが起きる。

 それは、その嘘が嘘のままであり続けるのだ。つまり、嘘がつきとおせるようになるのである。このおかげで、仕事に困ることはないし、結果として金にも困っていない。

 この木はきっと、未完成品だったのだ。

 人の命を幾つかと、ほんの少しの災害、そして、小さじ一杯分の悪意。

 それが足りなかった。

 地割れによって、すべてが満ちた木は見事なくらい、私にとって正しい木になった。これからも仲良くしたいものだ。

 もしも、まだ未完成だというのなら。

 私が育ててやらねばなるまい。

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