第十七章 リリアのために前半

 リリアーナが高熱を出し寝込んでから丸一日が経過しようとしていた頃。アルベルトは彼女と初めて出会った中庭に佇み考え込んでいた。


「リリア……」


そっと呟きを零すと彼女と初めて出会った時の光景がよみがえって来る。


『あ、貴方。メルさんの婚約者でしょ。メルさんに違うって教えてあげなさいよ』


『こ、これは何かの間違いで……というより、どうすればそう解釈されるのか私にもわからなくて……ああ、もう混乱して頭がおかしくなりそう』


「ほんとに、リリアは放っておけない……いつからだったんだろう。目が離せなくなったのは……俺、リリアの事いつの間にか……」


取り乱して心の声がだだ漏れだった彼女の事を思いだし小さく笑うも、すぐに暗い顔に戻り握り拳を作りまた考え込むように黙る。


アルベルトが中庭にいた頃ルシフェルは屋上に立ち複雑な心情をごまかすかのように一心不乱にヴァイオリンを演奏していた。


『彼女のお弁当をどうするつもりだったんだ?』


『彼女があまりにも格式がないから、私が代わりにこんな粗末なお弁当捨てて差し上げようと思っただけですわ』


ヴァイオリンを弾きながらリリアーナと出会った時の事を思い出す。


『きゃ……る、ルシフェルさん?』


「っ!?」


彼女との出来事を思い起こしていた時絃が切れる。


「……リリア」


ヴァイオリンを下ろしそっと呟くと夜の空を祈るように見やった。


ルシフェルが夜空を見詰めている頃。リックはリリアーナと初めて出会った渡り廊下で膝を抱え項垂れていた。


『ふーん。どんな子かと思ったら、なるほど、ね。……よし、それじゃあリリア、僕とも友達になって。ってことでよろしく』


『は、え。どうしていきなりそうなるんですの!?』


「っ……」


彼女と出会った時の事を思い出して唇をかみしめ顔を埋める。


『その、急いでいて……廊下を走ってしまったんですわ』


『ふ~ん。リリアって前から思っていたけどやることも可愛いよね』


『は、可愛い?!』


「……リリアがいない世界なら僕は生きていたくなんてないよ」


消え入りそうな声で呟かれた言の葉は夜空に舞い上がる風が攫い消えていった。


リックが膝を抱えているころルーティーは生徒会とクイズ対決をした体育館で一人座り込みリリアーナの事を考えていた。


『い、いただきます……』


⦅ん、ん~ん! 美味しい。ルーティーのパイ美味しすぎる⦆


『ふふ。お口に合ったようで良かったです』


「リリアさん……」


美味しそうにパイを食べるリリアーナの姿を思い出した彼女は静かに涙を流し嗚咽する。


ルーティーが涙を流していた頃誰もいない教室で一人席に座りマノンは俯いていた。


『わ、私と一緒に登校だなんて……私はあなた達の敵ですわよ』


『そんなことないですよ。リリアさんが本当はとても優しい人だってことは分かっています』


『エルにいいようにこき使われているんだろ? あんな人見限ってぼく達と一緒にいるほうのが楽しいと思うよ』


『ふ、二人とも顔が近い、近すぎですわ!』


「……リリア。ぼくは……」


リリアーナの事を思い起こていた彼は両手の拳を握り締め、自責の念に身体を小刻みに震わせる。


マノンが自責の念に捕らわれていた頃フレアはリリアーナと出会った場所が見える廊下からぼんやりと外の景色を眺めていた。


『ち、ち、違いますわ! 私は本当に、メラルーシィさんをこの学園から追い出したくて』


『まぁ、お姉様ったら本心ではそんなこと思ってもいないのに……エルさんにそういうようにって言われて仕方なくそう言っているんですよね』


『今の話を聞いてどうしたらそうとらえられるのですの?』


「っ!」


リリアーナとの出会いを思い出した彼女は悲しみで歪む顔を隠すように俯く。


「わたしは、リリアの事助けてあげられないの?」


震える声でそう言うとしゃがみ込み嗚咽を堪えた。


フレアがそうして嗚咽をこらえている頃。メラルーシィはリリアーナとお弁当を食べた森の中で木の下で座り込みその時の事を思い返していた。


『はい。お姉様のために心を込めて作りました。どうぞ召し上がってください』


⦅メルの手作り弁当!⦆


『し、仕方ありませんので、食べて差し上げますわ』


『メ、メラルーシィさん。このお弁当美味しかったですわ。でも、私がこんな事言ったなんて絶対に他の人には特にエル様には言わないように』


「お姉様……ぅ……ぅうっ」


リリアーナの顔を思い浮かべる度に涙がこみあげてきて堪えきれなくなり鳴き声をあげて暫くその場で静かに泣いた。


「お姉様のために私ができる事があるはずですわ」


そうしてどれくらいの時が立ったのだろうか、泣きたい気持ちが少し治まった頃メラルーシィは大好きなリリアーナのために何かできる事があるはずだと考える。


「そうですわ、お姉様が苦しんでいるのに何もしないでただ泣いているなんて……それだけではだめ。万能薬……そうですわ。万能薬ですわ! お姉様のためにどんな病でも治してしまうという伝説の万能薬を見つけてみせます」


決意が固まるとさっきまで悲しんでいたのが嘘のようにすっと立ち上がり皆にも協力してもらおうとアルベルト達を探しに歩き出した。

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