第十二章 運命のイベントへ

 リリアーナの日常が変わってから数か月後、エルシアと共に会長に呼ばれた彼女は生徒会室へと向かう。


(夏休み前に生徒会室に呼ばれるって……これってリリアーナ率いるいじめっ子グループが最後の任務を与えられるあのイベントよね)


蝉の声がけたたましく泣き叫ぶ中リリアーナは内心で呟き考えを巡らせる。


(メルへの最後の嫌がらせでリリアーナ率いるいじめっ子グループがエル様や生徒会の指示にしたがい彼女を体育館の倉庫に閉じ込める。それに気づいた攻略対象者達がメルを助け出しいじめっ子グループをコテンパンにして彼女の前に二度と現れないように言い放ちイベントは終了。その後エル様にこっぴどく叱られたあげく使えないと言われて捨てられるんだよね。そこから先のストーリーではリリアーナは全然出てこなくなるからどうなったのか分からないけど、きっとエル様に学園で過ごしている間奴隷も同然でこき使われて卒業と共に雑草のように踏みにじられてもう使えないとかって言われて捨てられる……そんな感じなのかな)


この先の展開を考えると不安で仕方なくなるが、でもそれでヒロインが攻略対象者達の誰かと結ばれるならばと気を持ち直す。


そんなことを考えているといつの間にか生徒会室へと到着しており入室していくエルシアに続いて部屋の中へと入った。


「来たね」


「私を呼んだのだから、あの女をこの学園から追い出す良い案が浮かんだということかしら?」


会長席に座るキールが静かな口調で言うと令嬢がにやりと笑い尋ねる。


「私自身ここまでするのは流石にやりすぎではないかなとは思ったけれど、メラルーシィさんがこの学園を退学するしかなくなる方法はこれ以外思いつかなかったからね」


「それで、どんな方法ですの」


彼の言葉にエルシアが早く話せと言わんばかりに聞く。


「もう直ぐ期末テストがあるのは知っていますよね。メラルーシィ―さんがそのテストを受けられないようにするんです。病欠以外でテストを受けられなかった生徒がどうなるのかは知ってるでしょう?」


「なるほど、病欠でもないのにテストを受けなかった者は即退学になる……この学園の決まりですわね」


キールの言葉に彼女がにやりと笑い納得したと言って頷く。


「それで、今度こそメラルーシィさんは退学になる。それでいいですね? エルシアさん」


「構いませんわ。あの目障りな女がこの学園から消えてくれればそれで……ふふ、おっふぉふぉふぉふぉっ!」


彼が確認するとエルシアが答え声高らかに笑う。


「それで、メラルーシィさんがテストに出られないようにリリアーナさん。貴女に力を貸してもらいます」


「つまり、テストが始まる前にメラルーシィさんをどうにかしておけということですか」


「簡単なことです。テストが終わるまでの間倉庫にでも閉じ込めてしまっておけばいいんです」


キールの視線がリリアーナへと向けられる。それに彼女はシナリオ通りの台詞を言った。


彼がにこりと笑うとそう言って「頼んだよ」といいたげに見詰める。


「はい。分かりました」


彼女が承諾したのを見ると話は終わりだと言われ生徒会室から出て行った。


「ついに最後のイベントだわ……今度こそ成功させてメルが攻略対象者と結ばれるように頑張らなくちゃ」


寮の部屋で今日の内容を思い返していた彼女は意気込むといよいよ明日が運命の日だと緊張する気持ちをごまかすかのようにテスト勉強へと励んだ。


「私前世では学園生活もできなかったから、こうやって勉強できるのも楽しいものだわ。ずっと家か病院のベッドの上で過ごすだけだったからね。はぁ……リリアーナじゃなければもっと普通の女の子の様に学園生活を楽しめていただろうに」


テスト勉強なんて前世では一度もやったことがなかったため、こうやって必死に勉強するのも学生時代の楽しみの一つだと喜ぶ半面、自分がリリアーナというモブキャラでエルシアの奴隷のようにこき使われるだけの存在であり、主人公達に嫌われコテンパンにやっつけられるという運命が待っている事を思うと学園生活も素直に楽しめないと肩をおとす。


「とにかく、明日は頑張らなくちゃ。ヒロインがハッピーエンドになる未来のために!」


そう呟くと再びテスト勉強へと戻り十分やったなと思った頃に就寝した。


「それでは、リリア。あの女の下に参りましょうか」


(ついに運命の日だわ。頑張って悪役を演じ切るわよ)


翌日エルシアの部屋へと呼び出されたリリアーナは彼女の言葉を聞き流しながら自分の役割を果たそうと心に誓う。


「あの女の部屋へ行き、体育館倉庫へと来るようにと伝えてちょうだい」


「はい」


令嬢の言葉に彼女は返事をすると一年生が暮らす一階の南側にある寮へと赴き受付でメラルーシィの部屋番号を聞くと彼女の部屋へと訪れる。


「はい……あ、お姉様。私の部屋に来てくださるなんて、どうぞあがって行ってください」


「部屋に上がるために来たんじゃありませんわ。貴女に話があって……登校前に体育館の倉庫まで来てくださるかしら? とても大切なお話なの。その……人に聞かれたくないので、誰にも気づかれずに貴女一人で来て下さらないかしら」


扉をノックすると音に反応しメラルーシィが出てくる。そしてリリアーナの顔を見たとたん笑顔で招き入れようとしたが、彼女はそれを止めてなるべく困った顔を意識しながら小声で話す。


「お姉様が私に大事なお話を……! 分かりました。必ず体育館倉庫に向かいます」


(あれ、何か顔が赤いような気がするけど気のせいだよね?)


「必ず一人で来てくださいね……それでは、私はこれで失礼します」


リリアーナの言葉に何かを思い至った様子で頬を紅潮させながら力強く頷くメラルーシィの様子に疑問を抱いたものの特に気にもとめずに念押ししてから立ち去る。


(さあ、メルはちゃんと来てくれるかしら)


シナリオ通りなら純粋で優しくて天然な彼女はリリアーナの誘いに乗り本当に一人で体育館倉庫まで着てしまうのだが、今までが上手くいっていなかったためまたストーリーが変わってしまったらと不安を抱く。


(とにかくちゃんと来てくれることを願うしかないわね)


内心でそう結論付け彼女も体育館倉庫へと向かうため寮を出て行った。


「来ましたわね。リリア、分かっていてね」


「はい……」


体育館の前へと本当にメラルーシィが一人できたことを物陰に隠れて見ていたエルシアがほくそ笑み言うとリリアーナに指示を出す。


彼女はそれに返事をするとヒロインの前へと進み出ていった。


「あ、お姉様……私に大切なお話とは……もしかしなくてもその……」


「ここでは人の目があるかもしれませんので倉庫の中で……」


頬を赤らめもじもじとする彼女の様子に疑問を抱いたがシナリオ通りの台詞を言って倉庫の中へと誘い込む。


「今ですわ!」


「きゃっ!?」


エルシアの声が響くと共にモブ令嬢一がメラルーシィの背中を突き飛ばす。バランスを崩した彼女は倉庫の床へと倒れ込んだ。その瞬間を逃さずモブ令嬢二が扉を閉めて閂をする。


「リリアよくやりましたわ。褒めて差し上げてよ。これでテストが終わるまでの間あの女をここへ閉じ込めておけば全て上手くいきましてよ……おっふぉふぉふぉふぉっ!」


(上手くいった。これで後はゲーム通り攻略対象者達がメルを助けて私達がコテンパンにやられるだけだわ)


エルシアの嫌らしい笑い声がこだまする中リリアーナは運命のイベントがゲーム通りに発展したことに安堵の息を零した。

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