第十一章 変わりゆく日常
様子見を決め込んだリリアーナは翌日何食わぬ顔で登校する。
「リリアさん発見」
「作戦を決行する」
「きゃっ」
昨日と同じ様に突撃してきた双子に押され一瞬ふらつくも何とか踏ん張る。
「お姉様! 今日も一緒に登校しましょう」
「昨日は悪かったな。具合はもう大丈夫か?」
メラルーシィがにこやかな笑顔で言う横でアルベルトが心配そうな顔で尋ねた。
「わ、私と一緒に登校だなんて……私はあなた達の敵ですわよ」
昨日は声もあげられなかったが今日は違う。なんとしても悪役を演じ切ろうと声を張りあげ拒絶する。
「そんなことないですよ。リリアさんが本当はとても優しい人だってことは分かっています」
「エルにいいようにこき使われているんだろ? あんな人見限ってぼく達と一緒にいるほうのが楽しいと思うよ」
すると双子が爽やかに微笑みそっと耳打ちするようにリリアへと顔を近づけ囁きかけた。
「ふ、二人とも顔が近い、近すぎですわ!」
(うぉぉ~。美女と美男子の整った顔が目の前に~)
美女と美男子の顔が目の前にあることに赤面しパニックになりながらも何とか声をあげ離れてもらおうとする。
「ずるいですわ。私だってお姉様と……お姉様。私も仲間に入れて下さいませ」
「メルさんが私の腕をぉぉ」
メラルーシィが言うと彼女の右腕に自分の腕を絡ませ頭をリリアーナの肩へと寄せる。まるでカップルが歩くかのように隣を歩く彼女へとリリアーナは心の声がだだ漏れになった。
「お前等な、リリアが困ってるだろうが。離れろ」
そう言って三人を引きはがし助けてくれたアルベルトだが、なぜか彼女を抱き寄せたまま離れてくれない。
「あの、離れて下さいません事?」
「お前は危なっかしいからな、ガードだガード」
「とか何とかいいながら鼻の下を伸ばしてるんじゃありません事よ! リリアに触れるんじゃありませんわ。このけだもの!」
リリアーナが頼むものの一向に離れてくれる気配のない彼へと高速で何かが近付いてきたかと思うとアルベルトを突き飛ばした。
「うぉっ」
「きゃ」
「リリアは私の幼馴染ですのよ。あなた達みたいな野蛮な方達と関わっていてはリリアがかわいそうですわ。それに、あなた達は私達の敵。よってリリアをあなた方に奪われてなるものですか」
思いっきり突き飛ばされバランスを崩した彼と共にリリアーナも体勢を崩すも誰かに手を引かれ抱き寄せられる。
そこにエルシアの声が耳元で聞こえて見上げてみると彼女の横顔が目の前にあった。
(今私どういう状況? エル様に抱き寄せられてる?)
「エルさんお姉様を放してください。お姉様、すぐに助けてあげますからお待ちくださいね」
「危ないだろ。誰もいなかったからいいようなものの、誰かに当たっていたらどうするつもりだったんだ」
「アルベルトさん、自分が怪我をする事を考えて下さい」
「人を突き飛ばすなんて領家のお嬢様がやる行為とは思えないね」
混乱する彼女をよそにメラルーシィ達が話を続ける。
「おおっ。これは修羅場? 修羅場なんだね。僕も混ぜてよ」
「ちょっとエル、リリアに変なことしていないでしょうね?」
(さらに賑やかい連中来た)
リックが騒ぎをかぎつけやって来たかと思うと、リリアーナをエルシアから奪い返そうとしているのかフレアが割って入って来る。その様子に彼女は内心で悲鳴をあげた。
「あなた達近寄らないでくださいませ。私を誰だと思っていて!」
「ねぇ、ねぇ、リリア。今日こそ僕と一緒にお茶するよね?」
「今日こそわたしの部屋でコーディネートさせてくれるわよね」
エルシアの腕にいる彼女の右腕をリックが左腕をフレアが掴む。渡すまいとしている令嬢は腰を掴み三人に引っ張られる形となった。
「い、痛い。痛い。三者三様で引っ張らないでぇ~」
「彼女が困っている、止めないか」
引っぱられ腰と腕が悲鳴をあげる中リリアーナの悲痛な叫び声がこだまする。
そこに鋭い声が聞こえて来たかと思うと三人はその声に一瞬動きを止めた。その隙を逃すことなくリリアーナの身体は宙に浮きあがる。
「きゃ……ル、ルシフェルさん?」
一瞬悲鳴をあげた彼女だが冷静になり見上げると、ルシフェルの顔がまじかにあった。
リリアーナを優しく引き上げ地面へと降ろすと皆から彼女を隔てる様に前に立ち睨み付ける。
「リリアが困っているだろう。お前達もう少し考えて行動しろ」
「なんですの、一人だけ正義の味方みたいに気取って、リリアを返しなさい」
「ルシフェルさんだけずるいです。私もお姉様を助けようと思っていたのに」
ルシフェルの言葉にエルシアが食って掛かるとメラルーシィも口を開く。
「あんたこそリリアを独り占めしてるんじぁねえよ」
「私達別にリリアさんを困らせようとしていたわけではないですよ」
「僕達はただ一緒に登校しようとしていただけだ」
アルベルトが不貞腐れた顔で言う横でルーティーとマノンが交互に話す。
「いいねいいね。修羅場ってるね。ぼくも負けられないや」
「そう言えばルシフェル昨日わたしに宣戦布告してきたんだったわね。いいわ、わたしも負けないわよ」
リックがにやりと笑い言うとフレアが火花を散らしながら彼へと睨み付ける。
「お前達、何をしているんだ?」
「朝っぱらから騒ぎを起こすなんて……よほど君達は退学したいようだね」
エドワードの声がかけられるとキールも笑顔を張り付けた顔で静かに告げた。
「あなた達が騒ぎを起こすからリリアが迷惑しているんですわ。あんた達なんかさっさと退学しちゃえばいいのに」
「……エルもフレアもはしたない。王族の者とその貴族がやる行為ではない」
セレスがヒステリックになりながら捲し立てて喋る横で、フレンも冷静になれと言いたげに語った。
「君達全員生徒会室に来てもらうよ。このようなことになった原因について私達が納得するように説明してもらわないといけないですからね」
笑顔なのに怖いと感じる微笑みを浮かべて会長が言うと、逃れられないと悟ったみんなは素直に頷き従った。
「さて、君達はこの学園がどの様な場所なのか、ちゃんと理解しているんだろうか? 二度とこのような騒ぎを起こさないでもらいたいものですね。次に同じことを起こしたら私達生徒会も黙ってはいません。……リリアーナさん。貴女は教室に戻ってもいいです。他の皆様は反省文を書いていただきます。それで今回の件は許しましょう。いいですね」
「では、私はこれで」
騒ぎを起こした皆は反省文を書かされることとなり、一人だけ被害者であるリリアーナは生徒会室からの退出を許された。
「はぁ……疲れた。様子見なんて悠長なことしている場合じゃないわ。これは完璧に日常が変わっていってしまっている。エル様はあんなキャラじゃないはずだし、メル達だって私の事をコテンパンにやっつけるはずなのにどう見ても好意を寄せられてるわよね」
生徒会室から出た彼女は盛大に溜息を吐き出すと、今までの出来事を思い返して独り言を呟く。
「これ以上日常が変わってしまわないように、軌道修正するしかないわ」
意気込みを述べると決意を新たにし教室へと戻って行った。
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