第三章 ルシフェルとの出会い
アルベルトと出会った翌日の朝。リリアーナは寮の自室で昨日の出来事について振り返っていた。
「メルがいじめられているところにアルベルトがやって来て止めに入り、いじめっ子グループとの間でひと悶着ある……はずだったのにメルがあんなこと言うなんて思ってなかったわ。ゲームのシナリオと全然違う。何がいけなかったのかしら」
途中までは上手く行っていたのにも関わらず展開が変わってしまった事を必死に考えても答えは出てこなくて重い溜息を吐き出す。
「でもアルベルトとのイベントが出たのだから彼のルートが始まるわよね。次はルシフェルとの出会いだわ。今度は失敗しないように頑張らないと」
考えてもしかたない事だと頭を切り替え意気込むと学校へと向けて登校した。
そして運命の昼休みが訪れる。中庭のベンチに座りお昼ご飯を食べているメラルーシィの下へとリリアーナ達はやって来る。
しばらく様子を見ていて友達が席を外した瞬間を狙って近寄って行った。
「まあ、なんて庶民的なお弁当なのかしら。この学園でそんな粗末なお弁当を食べるなんて格式がなくってよ」
「あ、お姉様……」
悪人面を作りそう言い放ったリリアーナの姿に気付いた彼女が嬉しそうに頬をほころばせる。
「そんなお弁当いらないでしょう」
「わたくし達が代わりに捨てて差し上げますわ」
いじめっ子達がいやらしい口調で言うと彼女が持っているお弁当をひったくろうとした。
「おい、お前達何をやってるんだ」
(来た! ルシフェルの登場だわ)
突然鋭い声が聞こえてきたと思うとリリアーナ達の方へと誰かがやって来る。その姿を見た彼女は内心で興奮した声をあげた。
「……」
状況を把握したその男子生徒は冷たく刺すような瞳で睨み付けるようにいじめっ子グループへと視線を向ける。
「「っ!?」」
(おお。これがリアルルシフェルの冷殺!!)
その視線に怯えるモブいじめっ子グループ達の中で、一人だけ違う感想を抱き喜ぶリリアーナ。
「彼女のお弁当をどうするつもりだったんだ?」
「彼女があまりにも格式がないから、私が代わりにこんな粗末なお弁当捨てて差し上げようと思っただけですわ」
(嘘。ほんとはメルちゃんのお手製お弁当って食べてみたい物ランキングベストテンの一つ!!)
冷たい口調で尋ねられたリリアーナは臆することなく悪人面を意識しながら答えた。しかし同時に内心では本心を語る。
「何だと?」
「ですから、そんな庶民が食べるようなお弁当なんかこの学園に持ち込むなんておかしいって言ってるんですわ」
(ああ、自分の口から言ってる事とはいえごめんねメルちゃん)
苛立った顔をしてさらに目つきが悪くなる男子学生へと彼女はさらに言葉を続けた。しかし内心ではメラルーシィへ対する罪悪感で何度も頭を下げて謝る。
「……あんた。それは本心から言ってることか」
「え?」
次に口を開いた彼が放った言葉の意味が一瞬理解できずに呆けた声をあげる。
「なぜ、本心から思ってもいない事で彼女を責め立てる。自分の気持ちに嘘をついてまで彼女をいじめる本意はなんだ?」
「な、何を言っていますの?」
見透かしたかのような瞳で真実を追求してくる男子学生へとリリアーナは混乱する頭で何とか言葉を返す。
「はっ! お姉様。本当は私のお弁当を食べてみたいと言いたかったのですか?」
「はい?」
その時今まで黙り込んで何事か考えていたメラルーシィがそう言って彼女の顔を見詰めた。
その発想が何処からきたのだろうと疑問に思いながら困惑する気持ちを隠しきれずに変な声をあげてしまう。
(確かに食べてみたい物ランキングの中の一つだけど、どうしてそうなった)
「ふふ。お姉様ったらそうならそうだと遠回しに言わないで直接言って下さればよかったのに。今度お姉様の分のお弁当も用意してきますね」
「な、えっ。ええっと……」
内心で呟いていると彼女が嬉しそうに微笑みそう言ってきた。その言葉に「是非とも食べたいです」とも言えず曖昧な言葉で濁す。
「き。今日の所はこれくらいにして差し上げますわ」
「あ、リリア様」
「ち、ちょっとまたですの?」
返答に困ってしまったリリアーナは逃げるようにその場を後にする。その後を追いかけるように他のいじめっ子達も慌てて付いていった。
「……あ、お姉様」
「……なんだ。相当がっかりしているようだな」
立ち去ってしまった事にがくりと肩をおとし落ち込むメラルーシィへと彼がそう尋ねる。
「今度一緒にお弁当を食べましょうって伝えたかったです」
「彼女の事ずいぶん慕っているんだな」
彼女の返答を聞いた男子学生がそう言って微笑む。
「当然ですわ。お姉様はとてもお優しくて、私にいろいろと貴族階級の事やこの学園の事について教えて下さるんですもの。お弁当の事もきっと庶民が食べる安上がりな物ではなくて高級食材とかで作ったほうのがこの世界では浮かなくて済むって教えて下さっていたんですわ」
「そう捉えられる君の発想が羨ましいが……確かに彼女は本心から君に意地悪をしているわけではなさそうだ。なぜわざといじめるようなことをしているのか……」
「あ、そう言えばまだ自己紹介しておりませんでしたわね。私はメラルーシィです」
「おれはルシフェル・シュティファーベスだ」
そう言って自己紹介し合った二人は暫くその場で軽い雑談を交わし別れた。その事をリリアーナが知ればこれでフラグが立ったことを喜んだかもしれない。
しかしその事を知る由もない彼女はメラルーシィの下から逃げるように立ち去った後エルシアに呼び出され彼女の部屋へと向かっていた。
「うぅ。話って何だろう。まさか、ずっと失敗ばかりしているからいよいよもって私に何か嫌がらせを?」
そう考えると足が動かなくなってしまい一度廊下で立ち止まる。
「いや、いや。でも行かなかったらもっと何か別の事されそうだし……」
首を振ってそう言い聞かせてみるも一向に足が進まない。
「……はぁ」
意を決して動かない足を無理矢理動かし彼女の部屋の前までやって来るとその扉を叩き入室する。
「エル……様。お呼びですか」
部屋へと入るとそこにはすでに集められた他のいじめっ子グループのメンバーがいて皆怯えた顔でエルシアの様子を窺っていた。
「リリア、思っていた以上にあの女を侮辱し辱める作戦に手こずっているようね」
「申し訳ございません。邪魔が入り上手くいかなく、て……」
腕を組み静かな口調で言った彼女へとリリアーナはおずおずとした口調を意識して話す。
「もういいですわ。次は私が自らあの女を懲らしめて差し上げましてよ」
「……」
そう言ってにやりと笑うエルシアの言葉にどこかで聞いたことあるセリフだなとぼんやりと考える。
「話はそれだけです。今度こそあの女を貶めて差し上げてよ。ふふふっ。おーほほほっ!」
(あ、そうだ。この展開の後にリックとメルが出会う出会いイベントが発生するんだ)
高笑いする彼女の言葉が部屋へと響き渡る中リリアーナはゲームの内容を思い出し納得していた。
そうしてエルシアの部屋を出た彼女は自室へと向かうと今日の出来事を振り返る。
「また、失敗したんだよね。私ってそんなに内心で思っていることが顔に出てるのかな?」
ルシフェルに一発で見抜かれてしまうとは思っておらず、そんなに顔に出ていただろうかと自分の顔をペタペタと触ってみても答えがわかるはずも変わるはずもなく溜息を零す。
「でも、でも。ルシフェルとの出会いイベントはできたんだからきっと大丈夫だよね?」
そう言って納得させようと言い聞かせてみても、アルベルトに続きルシフェルとの出会いもゲームとは違う展開になってしまった事に頭を悩ませる。
「もっと、上手く「悪役」を演じて見せなきゃ」
そう決意すると鏡ごしに悪人面の練習をしてみる事に。
「うん、この顔なら完璧!」
数時間後何とか納得できる顔を作れるようになったリリアーナは嬉しそうに微笑む。
「よし、明日こそ頑張って「悪役」を演じるわよ!」
そう言って力拳を作る彼女の努力を誰も知らない。
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