【 第1話: 予兆 】


 あの日、8月11日。

 私は、水泳部の部活で、学校のプールで練習をしていた。


 中学で水泳部に入っていた私は、高校に入学してからもその得意だったフリースタイル(クロール)に磨きをかけるため、この学校の水泳部に入った。

 私の学校は、海岸からさほど遠くない場所にあり、よく家に帰る前に近くの海でもうひと泳ぎしていくことがあった。

 この辺りでは、結構有名な海水浴場で、夏は人も多く集まり、とても賑わいを見せる。


 でも……、

 それはやってきた……。


 新人戦を控えていたため、あの日あのプールで私は泳いでいた。

 前触れがなかった訳ではない。


 あれがやってくるおよそ30分程前。

 私は泳いでいて気付かなかったが、プールサイドにいた顧問の先生が地震に気付いた。


「あれっ? 何かまた揺れてないか?」

「そうですね。地震ですね……」


 でも、揺れはそんなに大きくなく、すぐに収まったため、あの日だけは、皆プールから上がることもなく、練習を続けていた。

 それは私たちの過信だった……。


 あの日の前日と前々日にも、同じように小さな地震があった。

 その時は、先生が気付いて、皆をプールから上げて避難をしたが、揺れはすぐに収まり、津波も一度も来なかった。


 しかし、あの日だけは、違っていた……。

 8月11日。

 あれがやってきてしまった……。


『ゴゴゴゴ……』


「んっ?」


 一番初めに、プールサイドで記録を取っていた2年生の先輩が異変に気付く。

 その先輩は、微かに地面を振動させる低い音と、何か嗅いだことの無い異様な匂いを感じ取っていた。

 慌てて顧問の先生に、この異変を伝えに走る。


 でも……、

 それは既に、私たちには遅過ぎたんだ……。


『ゴゴゴゴゴゴ……』



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