第12話 契約の儀
「では、こちらになります。詐夜子様」
「……ええ」
サルマンに用意させた儀式部屋に詐夜子は訪れる。
黒狼はサルマンが抱き上げて運んできてくれた。
流石に、子供である私には運ぶことは難しいしね。
サルマンは契約陣の上に私と対面させる形で黒狼を床に下ろす。
「……クゥン」
「大丈夫よ……サルマン。契約の祝詞を唱えれば、この子は助かるのよね?」
「は、はい。もちろんです」
「……わかったわ」
詐夜子は決意を新たに、サルマンから教わった契約の祝詞を唱え始める。
「……制約の檻。誓約の祝詞をもって、汝の残滓を言祝ぐ」
魔法陣は輝き出す。
金色の輝きが、私と黒狼の周りを包み込む。
「汝の輝石は我が軌跡、二つに一つの我が片割れよ。我が声に答えよ」
『……汝は、黒居詐夜子の半身。汝に名を賜ることを望む』
私と同じ声で、黒狼は告げた。
……確か、契約する前は主人の声を模倣する、とサルマンが言っていた。
名前、私の半身にあたるこの子の名前は――、
「……汝の名は、
傷ついた黒狼は金色の輝きを纏い、傷が癒えていく。
目を開き、金色の瞳を開けて彼は影に包まれた。
影に包まれた狼は、穏やかな褐色の肌をした青年の姿となって詐夜子に跪く。
「……契約を賜りました。私の名は、
黒いローブと正装らしい衣服を纏っている焦げ茶色の髪をした男は燦々と輝く月の瞳を持った男は甘い声で告げる。
小綺麗な顔で、私の前に跪くのに戸惑いを覚える。
この男が、私の半身……? 本当に?
――それよりも、彼の目を隠さないと。
「……我が主? どうかなされましたか?」
「これをつけなさい」
「? なぜ、」
詐夜子は手に持っていた自分には見える黒い布を牢月の目元に着ける。
「シェイドウォルフの目は個体によって光に弱いと聞いたわ。貴方の綺麗な目が世界を見えなくなるのは嫌なの」
「……ありがとうございます、我が主」
牢月は嬉しそうに笑った。
今度から、この子が私の絶対安心できる従者。
なら、親しみを込めて接するのはダメなことじゃないはずよね。
「詐夜子と呼んで」
「ですが……」
「貴方は私の半身なのでしょう? ならば、呼ぶことは義務と思いなさい」
「……わかりました、詐夜子様」
私は彼に手を差し伸べる。
彼は私の手を取って、人差し指に口付けをする。
「な、」
「……牢、月? きゃっ」
私は気が付けば、牢月に抱き上げられお姫様だっこされていた。
「我が愛しい人、貴方と巡り合うために私は産まれたのです……さぁ、寝室に参りましょう。今すぐにでも」
「シェイドウォルフ!! 詐夜子様になんて無礼なことを!!」
「さ、サルマン!? 彼はただ単に私を寝かしつけようとしているだけなんじゃ……?」
『サヨ嬢、どっからどうみてもアンタが喰われるとしか思えない言動でしょうよ』
「サイラス様、私としては詐夜子様の望むことをしたいだけですよ」
「サイラス? 誰のことだ、それは」
牢月はサイラスを認識できているの!?
ま、まずい。サルマンにはサイラスのことを話していない。
シェイドウルフは主人のための性格になる、とサルマンが言っていたはず。
なら――――!!
「牢月! 彼はサルマンよ! 言い間違えは許さないわ、謝罪を言いなさい!!」
「……これはこれは、失礼しました。サルマン殿、失礼をお許しください。ただ私は、我が主が肉体的疲労を感じたので休息を、と思っただけです」
「そ、そうですか……それならば構いませんが。詐夜子様に変なことをすれば、貴様だろうと斬りますぞ」
「はい、気を付けますね」
……なんだか、面倒な半身を持ってしまったな。
と、強く感じる詐夜子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます