第3話:愛弟子


 それから三十分余りが過ぎる頃、ギルドの扉がギィと開き、大柄な冒険者が入って来た。

 身の丈2メートルはあるだろうか。大きく鋭い瞳・鷲のような鼻・立派な白い髭――元A級冒険者ドワイト・ダンベルさんだ。


 周囲を見回した彼は、こちらに気付いたのか、スッと右手をあげる。


「すまない、アルト殿。所用があり、少し遅くなってしまった」


「えっと、校長先生の愛弟子って……ドワイトさんだったんですか?」


「うむ。エルム老師とは一時期、パーティを組んでおってな。もうかれこれ三十年前になるか……。あのときは随分としごかれたものだ」


 ドワイトさんはスキンヘッドをポリポリと掻きながら、どこか苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべる。


「そんなことより、本題へ入ろう。老師より、かなり逼迫ひっぱくした状況だと聞いておるぞ。なんでも、旧友が傀儡回廊から帰らんと?」


「はい……レックス=ガードナー、冒険者学院時代からの友達です」


「『万優の龍騎士』か……。確かに、討伐隊のメンバーに入っておるな」


 深刻な表情を浮かべた彼は、「本件について、儂が知っている情報を共有しておこう」と切り出した。


「レックス殿を含めた冒険者パーティ連合が、くだんの傀儡回廊に臨んだのは二週間前。数日にわたるダンジョン攻略の末、最上層にて復魔十使と思われる強敵と遭遇。壊滅的な被害を受け、敗走を始めたのが五日前――。これはつい先ほど、遠見とおみの魔術を得意とする、古い情報屋ゆうじんから買ったものだ。おそらく間違いないだろう」


「……五日・・……っ」


 王鍵おうけんによる事象の拒絶は、三日以内・・・・の出来事に限られる。

 最悪の場合――レックスが死亡していた場合、もはやどうすることもできない。


(……いや、変なことを考えるな……っ)


 レックスは強い。

 そして何より、信じられないほど頑丈タフだ。

 あいつがそう簡単にやられるわけがない。


「アルト殿、顔色が優れぬようだが……大丈夫か?」


「すみません、続けてください」


 ドワイトさんはコクリと頷いた後、懐から簡易的な世界地図を取り出し、それを机の上に広げる。


「儂等が今いるのはここ王都の冒険者ギルド、傀儡回廊は遥か南西の方角、灼熱の火山地帯の中央部に位置する。道中には深い渓谷けいこくがあるゆえ、迂回ルートを取らねばならん。徒歩かちで五日、早馬でも三日はかかってしまう。当然、時間を掛ければ掛けるほど、先行した冒険者パーティの死亡率は上がる。……アルト殿の召喚獣で、時短を図れないだろうか?」


「そう、ですね……。ワイバーンにお願いすれば、渓谷を越えられるので、半日も掛からずに着くかと」


「おぉ、それは助かる。であれば、すぐにでも発とう」


 彼はそう言うと、地図の南西にある小さな街を指さした。


「先も言った通り、傀儡回廊は灼熱の火山地帯にある。畢竟ひっきょう、ダンジョン内には火属性のモンスターが跋扈ばっこしておるだろう。まずは麓町ふもとまちのダブリスへ移動し、耐火装備を整えてから傀儡回廊へ入る。この流れでよいか?」


「はい、問題ありませ――」


 俺が頷くよりも早く、


「大丈夫です」


「それでいきましょう」


 ステラとルーンが力強く返事をした。


「えっ」


「何を驚いた顔をしているの?」


「当然、私達も行きますよ?」


「いやでも、傀儡回廊は本当に危険なダンジョンで――」


「そんな危険なところへ、アルト一人で行かせられるわけないでしょ?」


「レックスさんを助けたい気持ちは、私達も一緒ですからね。アルトさんが行くというのならば、もちろん同行させていただきます」


 ステラとルーンは頑固だ。

 一度こうだと言ったら、そう簡単には考えを曲げない。


 俺がどうしたものかと困っていると、ドワイトさんが口を開く。


「まぁ、問題あるまい。ステラ殿はB級冒険者『魔炎の剣姫』。ルーン殿は未だC級だが、『表裏の魔女』と知られ、後方支援は一級と聞く。戦力としては申し分ないじゃろう」


「そう、ですね」


 大ベテランの冒険者が、太鼓判を押しているんだ。

 きっとその判断に間違いないだろう。


(それに何より……ステラとルーンは強い)


 ステラはあの術式さえ使えば、まず以って負けない。

 ルーンは表裏の魔法を使えば、ある意味で最強になれる。


 二人の『異質な強さ』は、冒険者学院で一緒に学んできた俺が、他の誰よりもよく知っている。


 だから――きっと大丈夫だ。


「ステラ、ルーン、力を貸してくれるか?」


「当たり前じゃない」


「はい、もちろんです」


 こうして俺たちは、難関ダンジョン『傀儡回廊』の攻略に乗り出すのだった。

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昨日7月12日、『追放されたギルド職員』のコミックス第1巻が発売されました!

表紙イラストは近況ノートhttps://kakuyomu.jp/users/Tsukishima/news/16818093080978813944にドドンと大公開!(カクヨムはシステム上、この本文掲載ページに画像を載せられないので、近況ノートに掲載しております!)

こちらは小説ではなく漫画なので、アルトもステラもガンガン動き回ります!


ちなみに……第1巻には各種店舗特典が付いてくる!

マッグガーデン特約店様・アニメイト様・メロンブックス様・駿河屋様・こみらの!参加書店様・ゲーマーズ様・COMIC ZIN様・Renta!様・BOOK☆WALKER様でお買い上げいただくと、漫画家あづち涼先生描きおろしのペーパーやイラストカードやブロマイドなどがもらえます!


『追放されたギルド職員』コミックス第1巻、どうか是非お近くの書店でお買い上げいただけると嬉しいです!


月島秀一

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