第2話 up! up! my Friend ③
階段を下りて洗面所まで足を運ぶと、先約の姿があった。
洗面台の前に立っていたのは、ヘアバンドで前髪を上げた小早川だった。
小早川はタオルで顔を覆いながら、鏡に映った自分の顔をじっと見つめている。
薄暗い空間でひっそりと佇む小早川はどこか神秘的で、その美しい世界観を損なわれるのがもったいなかったのでこちらに気付くまでは静かにしていることにした。
日陰で咲かんとする花芽のように物憂げな眼差し。白く滑らかな素肌。精巧な人形のように整った横顔はうかつに触れれば崩れ落ちてしまいそうなほど儚げだ。こうして見ている分には、テレビや動画で愛想よく笑顔を振りまく双子の妹とははっきりと違う印象だ。
やがて小早川は俺の存在に気付いて目が合うと、振り返りながら表情を和らげた。
「衣彦くん。おはよう」
「おはよう。眠そうだな」
「うん。昨夜、変な時間に起きちゃって。それからずっと……」
「ずっと起きてたのか?」
「……そうなの」
「無理すんなよ。入学式の最中に貧血で倒れても、助けてやれないからな」
「うん……頑張る」
「一応、確認なんだけど」
「?」
「入学しても、隠すんだろ? ……その、ウェカピポのこばゆの姉ちゃんってことはさ」
「うん」
「それなら、下宿のみんなにも言っといた方が良いんじゃないか? 言わなくても気は遣ってくれるだろうけど、協力してもらわないと隠し通すのはきついだろ」
「あ……うん、そうだね」
要領を得ない返答に気を揉んでしまうのは、老婆心だろうか。普段からコミュニケーション能力の塊のような友達連中と付き合っているせいか、内向的で自己主張が控えめな小早川を見ていると無性にもどかしい。新人の教育に難儀する先輩みたいな気分だった。
「昔はもっと、普通にできたの」
まるで俺の考えていることを見透かしているかのような口ぶりで、小早川は言う。
「友達と外で遊んだり、人と話すことだって、全然平気だったの。でも、それができなくなっちゃって……」
「何でできなくなったんだ?」
「……良い子でいなくちゃ、私じゃなくなっちゃうから」
「? どういう──」
「みんなー! ご飯良いよー!」
折悪(おりあ)しく、みずほ姉ちゃんの声が小早川の話を遮った。
「あ……えっと……」
小早川は居間の方向と俺を交互に見ておろおろしていた。話を優先すべきか朝ごはんに向かうべきか迷っているようだ。
「……行くか?」
「……うん」
頷きながら、小早川は洗面台に置いていた瓶底眼鏡をかけ、ヘアバンドを外した。鼻先くらいまで伸びた長い前髪と分厚いレンズがカーテンのようにそのつぶらな瞳を隠す。
「ごめんね」
何で謝るんだ。そう言いかけて、小早川の手にコンタクトレンズのケースが握られていたことに気付く。
尋ねるべきか否か、迷ったのはほんの一瞬だった。中途半端にプライベートなことに踏み込むくらいなら最初から関わるべきじゃない。
俺は言おうとした言葉を喉の奥へと飲み込み、小早川とともに食堂へ向かった。
「2人ともおはよーっ」
小早川と俺が椅子に腰掛けると同時に、居間のドアを開けて潤花が入ってきた。
おろしたてのブレザーをさらっと着こなした潤花は、陽の当たる水面みたいにキラキラした笑顔だった。蝶が羽根を開いたような長いまつ毛に、夜の海を思わせる黒い瞳。目鼻立ちの整ったルックスは一目見ただけでも強く印象に残る。とにかく顔が良い。
「潤花ちゃん、おはよう」
「はよ」
「良い匂いするね。今日のご飯なんだろ?」
十畳ほどの居間にあるテーブルには、サラダや牛乳、昨夜の夕飯の残り物が並べられており、それぞれの椅子の前にはプレート1枚分ほどのスペースが空けられている。
「パン焼いてるんじゃないか? それっぽい匂いする」
「あー、ほんとだ。いいね。焦げたトーストくわえて『遅刻遅刻~!』とか言って走る?」
「その文化なら俺たちが産まれる前に絶滅したよ」
「私たちで令和最新版を更新しよ。頭に空飛ぶ竹とんぼみたいな機械付けて『遅刻遅刻~!』って言いながらトーストを……」
「そ、それも昔からあるよ……!」
小早川からのツッコミにケタケタ笑いながら潤花は椅子に腰かけた。
下宿生が座る席は俺が下宿に来た時点でいつのまにか決まっていて、潤花は俺の右隣で、その奥が優希先輩、そして俺の正面にみずほ姉ちゃん、対角の席には小早川という位置付けだった。
よりによって下宿で一番うるさいやつが隣に来てしまったことに不服はあるが、すべての権限は実行支配者であるみずほ姉ちゃんが握っているので抗議をしたところで『仲良くしなきゃダメだよ』と一蹴されてしまうのが目に見えているため諦めるしかなかった。
「ねぇ衣彦。高校デビューに向けて、今日の意気込みは?」
ほら、すぐこういうめんどくさいこと聞いてくる。親戚のおばさんかよ。
「変な女に振り回されない高校生活にしたいね」
「あっはっは、もう振り回されてるじゃーん」
「お前……一昨日ゴキブリの盾にしたこと一生恨むからな」
「真由は?」
「私は……高校生になって、ちょっとでも、違う自分になりたいな……」
「……そっか。良いね。うん、真由がそう思ったなら、きっとなれるよ」
あっさり笑い飛ばした俺へのリアクションとは違い、真剣な口調で潤花は言う。
「真由。ちょっと、お尻が背もたれに付くまでぐっと引いて座ってみて」
「? こう?」
「そうそう。それで、頭のてっぺんが天井から吊るされてるような感覚で、顎を引くの。そのときに肩や首に力入れないように、リラックスしてね。あとは……余裕があったらだけど、膝の角度は九十度で、ふとももが床と平行になるように意識してみて」
「……こうかな」
「いいねー、完璧。じゃああとは……上、一枚脱いでみよっか? フヒヒ」
「おい、オッサン」
「あははは、冗談冗談。でも、どう? だいぶ姿勢良くなったと思わない?」
「まぁ、確かに」
認めるのは少し癪(しゃく)だが、潤花の言う通り、姿勢を変えただけで小早川の印象がはっきりと変わって見えた。なんとなく自信がなさそうだったのが、背筋が伸びたことで凛とした品の良さと余裕を感じる。
「でしょ? ほら真由、これでまず一つ、違う自分になれたよ」
「あ……うん」
小早川は少し嬉しそうに微笑んだ。口を開いて何か言いたそうだが、うまく言葉にできないようだった。
「『変わりたい』って気持ちがあるなら、いくらでも変われるよ。私だって昔は泣き虫だったんだから」
「え……? そうなの?」
「そうだよー。頑張って治したんだもん」
「潤花ちゃん、すごいね……」
「ううん、すごくなんてないよ。中身がちゃらんぽらんだから、せめて見た目くらいはちゃんとしておこうって思ってるだけ」
「……そういうウルの意気込みは? 高校生活の」
「私? 私はそうだなぁ……『喧嘩売られても、ぶん殴るのは2回我慢してから』かな」
「物騒過ぎる」
「だってそこまで話の通じない相手なら、痛い目に遭わせてわからせるしか方法なくない? 百万回の『やめて』より一回の裏拳でしょ」
「『目には目を』じゃ世界は盲目になる。ガンジーがそう言ってたぞ」
「えー、じゃあ『力』以上に誰にでも効いてすぐ使えるものって他にある? 大事な人を守るためには、それが一番手っ取り早いと思うんだけど」
「お前なぁ……」
「あの、二人とも……」
「みんなー、おはよー」
朝っぱらから血圧が上がりそうな議論に片足を突っ込みかけたところで、2階から優希先輩が降りてきた。
先輩は妹の潤花とは対照的に、美人というよりも小動物を思わせる可愛らしい顔立ちだ。くりっとした丸い瞳は愛嬌たっぷりで、その目が弓なりにアーチを描いたときの笑顔がとても愛くるしい。こういう無防備な笑顔を向けられて勘違いして好きになる陰キャなクラスメート、絶対何人もいるんだろうな、俺みたいなやつ。
「おはよう。四人とも揃ったー?」
先輩の声が聞こえたのか、キッチンからみずほ姉ちゃんがひょっこり顔を出した。
「みーちゃんおはよー。待たせちゃってごめんねー」
「ううん、いいのいいの──ってちょっと優希⁉ 何それ⁉」
突然みずほ姉ちゃんが声を荒げたので何事かと思い先輩の方を見ると、
「うおっ……でっか!」
「っ……! や、や、わっ……!」
「あー……それ」
俺達の視線の先には、先輩が抱えている瓶の中で液体漬けにされた、巨大なムカデだった。2リットルのペットボトルほどのサイズの瓶にすっぽり収まった全身凶器のような見た目のムカデと、それを抱える童顔の美少女のギャップ。絵面の癖がすごい。
「この子ね、何か月もエサ食べなくて調子悪かったんだけど、先週死んじゃったの」
「そ、それを何で持ち歩いてるの?」
「私の飼ってる大きい個体が亡くなったら、標本にしてうちの部に飾るってみんなと約束してたんだよね。もうすぐお別れって思ったら、離れるのが寂しくて……」
「学校に持ってく気⁉」
「うん、みーちゃんも見に来る? バードイーターとか、標本でも迫力すごいよ」
「見ないよ! それより、その子、早く見えないところにしまって!」
「うぅ~……これ以上見てたらお別れが恋しくなっちゃうもんね。仕方ない」
「お姉ちゃん、みーちゃんはそういう意味で言ったんじゃないと思うよ」
「寂しい気持ちはわかるけど、こないだみたいになるのはもう嫌だからね」
「うん。なるべく生餌は下に持ってこないようにする」
なんちゅう会話だ。
朝食の席に堂々とムカデの死骸を持ち込むやべぇやつと、それを小言で済ませてテキパキと全員分の配膳をこなす管理人。そしておそらく世界でも類稀(たぐいまれ)なシチュエーションの朝を迎えてドン引きしている俺たち新入り下宿生一同だったが、みずほ姉ちゃんがテーブルに朝食が並んだ頃にはすっかり目の前のご馳走に意識を奪われていた。
伊藤下宿の本日の朝食は、白菜とドライトマトのサラダに、昨夜の残りの鶏肉と大根の煮込み、そしてフレンチトーストだ。彩り豊かな料理のレパートリーは、みずほ姉ちゃんの母である秋子おばさんの趣向が影響している。
「あ! 私これ好き! 歴代の下宿生にも評判だったんだよねっ。何だっけ真由ちゃん、この……これの名は!」
「フレンチトースト。美味しそう……」
「そうそれ! フレンチトースト!」
マニアックな虫の名前は次々と出てくるのに、何故フレンチトーストの名前がすぐに出てこないのか、甚(はなは)だ疑問だ。
「えへへ、ありがと。お口に合うといいんだけど」
「もう見ただけでわかるよ、絶対おいしいって。みーちゃん、これ写真撮って良い? 友達に自慢したい」
「もー、撮ってもいいけど、あんまり味に期待しないでよ? ……はい、衣彦のは甘いやつにしといたから」
「ん。ありがと」
プロ級の腕前にこの行き届いた気配り。こんな朝食を毎日食える下宿、世界でここしかないんだよなぁ。でもまぁ、俺は昔から食ってるけど……な。
「何か地下アイドルの古参ファンみたいな顔してる人いる」
顔に出ていたようだ。俺のポーカーフェイスを見破るとはさすが元格闘家女子。侮れない観察眼である。
「ねぇねぇみんな早く食べよ? お腹空いてきちゃった」
「あ、そうだね。それじゃあ、いただきますしよっか?」
その言葉を皮切りに、俺たちはほぼ同時に手を合わせて「いただきます」と呟いた。
ここ数日間このメンツで寝食を共にしてきたが、みんな思いのほかテーブルマナーや所作はちゃんとしていたので、生活の節々のシーンでそれぞれの家庭での育ちの良さがうかがえた。
「美味しい……!」
「ねー! 表面カリッとしてるのに中ふわふわ!」
「うんうん、このジューシーな甘さがまた良いんだよね。それにこの……ジューシーな甘さが……」
一人だけ明らかに食レポが怪しい先輩がいる。だがそれを突っ込んだらまた不必要な馴れ合いが始まるに決まっているので何も言わない。
「衣彦はどう?」
「うまいよ。久々に食べたけど、やっぱこれだね」
「良かったぁ。ちょっと焼き過ぎたかなと思ったけど、ちょうど良かったみたいだね」
「でもすごいよねみーちゃん。毎日みんなの分ごはん作って、しかも美味しいなんて。私、料理なんて全然できないもん」
「妹にカブトムシ用のゼリー食べさせるくらいだもんね」
「あれは本当に間違えただけだもん!」
「あはは、でもそんなに毎日きちんとしてるわけじゃないよ。たまにはたくさん作り置きしたり、買った総菜で済ましたりすることもあるからね」
「料理はいつから始めたの……?」
「んー、小学生の時かなぁ? それくらいからずっとお母さんのお手伝いしてたんだ」
「そんな小さな頃から……」
「ずっとお母さんと二人だったから、お母さんを助けてあげたかっただけだよ」
「みーちゃん……何食べたらそんな良い子になれるの? 私、わざわざ留学までしたのに勉強よりも人をぶん殴るのに夢中な生活だったから、お父さんとお母さんに申し訳なくなってきた」
「そんなことないってばー。潤花は良い子だし、私だって普通だよ、普通」
「みーちゃんの言う通りだよ。大丈夫。潤花は可愛いから」
「んー、じゃいっか」
『じゃいっか』じゃねぇよ、もっと食い下がれよ。普通今の話聞いたらもっと自分を顧(かえり)みて故郷の両親に思いを馳せつつ夜にでも電話しようかなって気持ちになる流れだろうが……と、満 面の笑みでフレンチトーストを頬張る潤花を睨むが、腹立つことにこの女、姉の言う通り、可愛い。普段すましている分には大人びていて美人なのだが、こうして子供のように天真爛漫な笑顔を見ていると、イライラしていた俺も思わず「……じゃいっか!」と許してしまいそうになる。ふざけやがって。
「……負けねぇからな」
「え、何? 怖っ」
声に漏れていたらしい。
「みずほちゃん……お母さんと喧嘩したことはなかったの?」
「怒られたことはあるけど、喧嘩はないなぁ。お母さん、優しかったよね?」
「そうじゃなかったら、みずほ姉ちゃんがここまで良い人に育ってないよ」
「それは言い過ぎ。私なんてお母さんに比べれば全然だもん」
俺は牛乳を飲みながらテレビの方に視線を移した。ニュース番組では最新曲のヒットチャートを紹介していた。
「もし私が優しいんだとしたら、それは私の周りの人達が優しくしてくれたからだよ。それにその周りの人たちは、お母さんと仲の良い人達だったから……巡り巡って、お母さんのおかげかもね」
「みずほちゃん……」
『続いてのコーナーは、先週に続きランキング1位を記録した、あの人気アイドルのインタビューです』
「でも、みずほちゃんが優しいのはきっと──」
『今日のワンチャン占い! はっじまーるよー!』
「あ、もうこんな時間かぁ」
みずほ姉ちゃんと小早川の会話をよそに、潤花がテレビにリモコンを向けていた。
液晶画面にはバラエティ情報番組の占いコーナーが始まり、もふもふした毛並みの犬が民家の室内で自分のしっぽを追いかけている。
「私この占い絶対見るんだよね! ねぇみんな何座? 勝負しよっ! 新学期初日で一番運勢高かった人が勝ちね!」
「いや、もうこんな時間なんだし早く準備しようぜ」
画面端の時刻は8時前を示していた。そろそろ出る準備をしなくてはいけない。
「大丈夫大丈夫。授業が始まってるならともかく、始業式に遅れたってきっと大目に見てくれるよ」
こいつ……楽観的を通り越してもはや頭の中がハッピーセットだな。
「っていうか、ウル。俺昨日『絶対混むから風呂入る順番シフト制にしよう』って言っておいたけど、決めた?」
「ん、そういえば決めてないね」
「はぁ? 言っただろ。俺、一番最後だから困るんだけど」
「その順番、前の代でも決めたことあるんだけど、部活の朝練とか寝坊とかで、日によってみんなの準備する時間がバラバラになっちゃって、自然消滅しちゃったんだよね。ねぇみーちゃん」
「うん、衣彦の言いたいこともわかるんだけど、その時の下宿生の代の考え方にもよるかな」
「ほらほら、先人達もこう言ってることだし、頭使わないで早いもの勝ちでいいじゃん」
「いや、でもそれだと誰が入ったか確認にし、時間がかかるだろって……そんなにきっちりしなくても、せめて優先順位くらいはさ……」
「譲り合いの精神でいけば大丈夫だって。それより衣彦、何座? 勝負しよ勝負」
「今はそんな話はどうでもいいだろ」
「ふ、二人とも、喧嘩は……」
「あー真由、私達別に怒ってるわけじゃないし、喧嘩じゃないよ。ねぇ衣彦?」
いや俺はバリバリ怒ってるんだが? 俺は無言で潤花をにらむ。なんなんだその『私は別にこんなことでムキになってませんけど?』みたいな余裕たっぷりの上から目線。気に入りませんわぁ。
「じゃあこうしよっか? 衣彦と私、占いの順位低かった方の言うこと聞くの。私おひつじ座!」
「はっ。くだらねー。絶対やらねー」
「ふーん、怖いんだ?」
「はん?」
「衣彦、女の子に負けるの、怖いんだ?」
「みずがめ座だオラァァ! かかってこいやァ!」
「あ、私4位だ」
「みーちゃん良いなー、9位だったぁ」
「6位……」
愛らしい犬の映像とともに発表される順位を固唾を飲んで見守る俺と潤花。
満を持して発表された今日の運勢第一位は……
『第1位は……おひつじ座だよ! おめでとー!』
「いぇーーーーい‼ 民主主義の勝利ー‼」
「あーーーークッソ‼ っざけんなよマジ‼」
「衣彦、言葉遣い汚ーい」
「だってみずほ姉ちゃん、こいつさぁ!」
「あはは、古賀くんと潤花、兄姉喧嘩してるみたい」
「聞いた衣彦⁉ 私達兄姉みたいだって! 盃(さかずき)でも交わしちゃう⁉」
「お前と義兄姉の契り結ぶくらいなら、その口塞ぐ猿轡(さるぐつわ)結ぶわ」
「照れるなって~、こ~いつ~!」
「デコツンやめろ!」
『12位はみずがめ座! ごめんねー! ラッキーアイテムは《水》! 飲むと元気になるよ!』
「衣彦、ほら、ラッキーアイテム水だって。冷蔵庫にある水持ってく? 2リットルのなんだけど……」
「学校行く途中に川あるじゃん! やったね衣彦! 飲み放題だよ!」
「ふっ……ふふっ……川の水、飲み放題……」
「うちの部に浄水器あるから好きなだけ飲んで良いよ! 軟水にする? 純水にする? それともR・O・水……?♡」
ダメだ。猿轡が足りない。
頭を抱える俺をよそに、女子達がどうでもいいガールズトークで盛り上がっている傍ら、居間のテレビではタレントがやたらとご機嫌な声を弾ませていた。
『はーい! それじゃ、次は今日のピックアップミュージックだよ! みんな大好きあの大人気アイドル! Wake up peopleで──《up! up!》 どうぞ!』
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