7 ランタオとタンタン
「大きく育てよ! 」
意地悪く笑って手を振り去った船長たちに無邪気に手を振って、幼き少年は見知らぬ孤島に取り残された。視線の片隅に黒猫がいるのを見つけた少年。黒猫はその少年を見た。
「黒ねこ、タンタン! 」
勝手にタンタンと名付けられた黒猫は、もう旅立とうとしていた。だが力尽きようとする度に何も知らない少年が視界にちらついて気になって仕方がなかった。
そんな自分の尾っぽに異変があることに気が付いたタンタン。タンタンは驚いたときにあがった声がただの猫ではないことに気づいた。地面がいつもより遠くにあることにも気づいた。
「おい、そこの少年。俺様に何をした」
「思ったよりも図太い声だな」と髭をなめてもう一度少年を睨むタンタン。少年はきょとんとしている。
「ぼく、ラータ」
「ラータ? お前はそう名付けられたのか?」
タンタンは気付いた。この無邪気な少年は何も知らないことに。タンタンは急に少年が可哀そうに見えて、ランタオと少年を呼ぶことにした。ラータという名前は彼の記憶から忘れ去られた。黒猫は”魔法の国からきた年老いた猫”。小さい頃の修行で覚えた”取り消しの呪文”でランタオの悲しみ深い記憶ごとすべて洗い流した。
「ランタオ、お前は大きくなったら何になりたい」
「タンタン! 」
「にゃはははは、俺様になりたいのか。いいだろう、お前にいいことを教えてやろう」
”いいこと”というのはタンタンが知っている魔法のすべてだった。いい闇夜だった。闇夜は孤独すら感じさせる広大さで二人を吞み込みそうだった。
「あの枝を持て、念じてこうしろ」
タンタンはその大きな目で大きな石をカッと見つめた。石は軽々しく浮いて宙を舞った。
「ねん、じる? 」
「にゃはははは、わからないだろう」
当時、彼は5歳だった。わかるはずもないとタンタンは高を括っていた。ところが草むらで用を足した後、見てみると海岸にランタオがいない。まさかと思ったが小さな足跡が森の中まで続いていた。
タンタンは必死に走り回った。鋭い草の先端が体を傷つけても気にしなかった。タンタンは生きていてはじめて泣きそうになっていた。幸いなことに魔物は小さい雪うさぎばっかりだった。走り回った。そうして重い息を吐きながら、ようやく見つけたランタオを叱るために近づいた。
ランタオは叱られることなど平気で、「見て見て」と言いながらなんと持っていた枝の先で、闇夜を消し去ってしまったのだ。
青や白の星々が枝に吸い込まれていくのを目の当たりにしたとき、タンタンは自らのしていた数年がバカバカしくさえ思えた。5歳のランタオは出会ってから数日間で魔法を容易く習得してしまった。タンタンは永い自分の命をすべて彼に掲げようと決意した。
それからタンタンのランタオへの指導は日に日に厳しくなっていった。ランタオは平気で指導についてきた。長い年月を超えて、ランタオは16歳になった。
ランタオは夢を持っていた。生命の石を自らの手にすることだった。小さな夢だがこれが冒険への幕開けとなったのだ。
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