5 癒されてはどうですか?
時計の針が12時を指したころ、ランタオはまだ眠れていなかった。ベッドからおき上がり、いびきをかいて眠っているリオナをうらやましく思いつつダイニングテーブルへ向かう。椅子に腰かけ背もたれに体をゆだねると、これまで溜まっていた疲労がのしかかってきた。深くため息をつく。前髪も伸びたな、とピンクの髪を触る。
ギギィとドアが軋む音がして見ると、ランタンを持った人影が見える。身構えてその様子を伺っていると、その正体はエミリーだった。
「驚かせてしまってごめんなさい。眠れないんですか? 」
「あ、はい。そうなんです、眠れなくて」
ランタオは彼女の顔を見ると幾ばかりか安心して、ため息を漏らした。
「そう、ですよね。あ、そうだ。少しお待ちくださいな」
その場から離れたエミリーは数十分後に戻ってきた。湯気が暗闇に立ち上っている。微かに甘いミルクの匂いがした。
「これでも飲んでくださいな」
ミルクをワゴンに乗せて、器用にも片方の手でランタンを持って歩いてくる。音をたてないようにしっかりとミルクを置いて、エミリーは前の椅子に座った。
「そのまま居てください」
すかさず、ランタオは言った。ランタオはエミリーの顔を見ると、顔を火照らせてしぼみそうになった。エミリーは声を出さずに微笑んだ。
「可愛いですね、ランタオさんは」
「な、なんですか急に。可愛くなんかないですよ」
「あ、拗ねてますよー」
ほのぼのした空気に包まれて、ランタオの心のさざ波が落ち着いてきた。
「レオナさん、眠っちゃってますね」
「ぐっすりですよ、不安じゃないんだか」
「やっぱり不安なんだ」
しまったという顔をするランタオを見て、少し考えた顔をするエミリーはしばらくしてから口を開いた。
「ランタオさん、私が言うのもおこがましいのですが。ランタオさんはこれから幾度もの試練を乗り越えなければならないと思います。それはどれほど心の強い人でも、辛いことです。でも夜明けはかならず来ます。といったらありきたりになってしまうのですが.......、私本当にこの言葉に救われてきたんです。どんなに辛くても、嬉しいことはいつの日も起こるんだ。そしてまた夜明けが来て.......そうやってみんな辛さも喜びも乗り越えて生きていくんだって」
「.......お兄さんの言葉ですか? 」
「.......はい、大好きな言葉で今でも覚えています」
「素敵だと思います」
ミルクを一頻り飲んだ後、ランタオは眠くなってきた。
「ランタオさん、いい夢を」
「ありがとう、エミリーさんも」
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