第16話 一条 美貴 (いちじょう みき)
僕のランプに照らし出された小柄な女性。
蒼白の顔面はひどくやつれている。死んだような目で、こちらをしっかりと見ている。
その顔や目つきからは果たして、どんな感情の表れもよくは分からない。
「あ、すみません。僕はいま、えっと、その……。僕は、招待されて来た者です。井上と言います。段柳くんの高校時代の友達で、それで……」
その時、暗がりに照らし出されたその女性は、ぶつぶつと口をわずかに動かした。
そして、その目から涙を静かに流した。
ようやく、女性の目に生気が戻った。
「……井上? あなた、井上君なの?」
その返答に言葉を一瞬間失った。
記憶が蘇る。そして、蘇るごとに、目の前の女性のこの変わり果てた姿に驚愕せざる得ない。
その女性は、一条美貴( いちじょう みき )であった。段柳祐介が高校一年の時から結婚を約束していた女の子である。年は二歳ほど幼かったから、その時、彼女は中学生だった。
ああ、全くこんな容貌ではなかった。髪こそきれいに流しているが、表情の痩けた具合は浮浪者のようではないか。
いったい、どうしたというのか。どうして彼女がこのように哀れな姿でいるのか。僕の一条美貴は比類なき美しさをそなえていた。
彼女は、見た目の美しさというより、女性としての可愛らしさ、愛嬌があって、人間としての美しさ、美徳という類いのものを持っていた。
その立ち居振る舞いを見ていただけで、いい歳を超えた男ならば、下心を覗かせるのが健全だったといえるほど。それほど女性の魅力が充分にあった。
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