第4話 僕の素性
僕は高校を卒業して、大学受験を無難に失敗とも成功ともつかぬ形で終わらせ、第5志望くらいの大学に入った。
それで家を出て一人暮らしをした。二十七歳になって、社会人をしている今でもそのままの家で一人暮らしを継続している。
僕は別に自分の道を、自分で決めてはいなかったのだ。
大学生活はそれでも、まあ楽しめたと思う。主に遊びに関してだが。
それで、いよいよ就職活動だという時期になって、大学選びの重要性を痛感させられた。浪人すればよかったと思い返したほどだ。何も十八、十九で一年浪人したってそれほど人生の烙印にはならなかっただろうに。
そんな後悔をしても役には立たない。就職活動は時間制限があるから、次から次へと始まって、終わっていく。
やっととの思いで、証券会社への就職が決まった。それで証券会社人生が始まるはずだった。ただ、自分にとって何の思いも希望も無い仕事は務まるはずもなかった。
何にもやりがいをみいだせなかった。周りの先輩や上司を目にしても結局、ピンとこなかった。
早い話が、嫌になって逃げた。二十六歳の頃だった。
尻尾を巻いて逃げた二十六歳の僕は、実家に戻らなかった。戻るつもりも無かった。
一ヶ月もぶらぶらするということなく、駅前のハンバーガーショップのアルバイトに募集した。
アルバイト面接した社員の男性は四十代くらいで、はきはきとした体育会系の日焼けした人だった。
「人生いろいろだな。それで、シフトはどんどん入ってくるのかな? 大丈夫だよね?」
「はい」
「時間はあるんだもんね。それに稼がなきゃね。男たる者、稼ぎがなくてはな」
「えっ、ええ。いや、はい。そうです。その通りですね」
気のない返事を返したが、もう僕の返答は聞いていなかった。
その後、僕は自分より年下の女性正社員の教育のもと、叱咤され続けながら、サービス業のあれこれを詰め込まされた。
とりあえず声だけはよく出るようになった。
僕は家族にもほとんど連絡を取らなくなった。母が連絡をよこして、それに応じるだけで、自分からは決して母や父に連絡を取りはしなかった。それに、大学の友人らとも疎遠になった。それにはいろいろ事情があって、もとより社会人になって交流は著しく減っていたのだ。
思い返すと高校卒業以来、山あり谷ありだった。山も谷もどちらも険しかったように思う。
そして、その中の、どの瞬間にもさきほどの電話の友人、段柳祐介はいない。
僕は高校を卒業して以降、一度も彼に会っていない。ただ彼の影響は今までの振り返った自分の人生に表れていたように思う。
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