秘密……コソコソ (・・?

『おい、ちょっと、あいつ、最近、ヘンじゃないかな。、あまり、喋らなくなったぞ!』


 お父さんが言ったよ。

 ……あたしは隠れてお父さんとお母さんの会話を盗み聴きしていたの。

 だって、やっぱり、あたし、芽を造ってごまかしていたんで、二人が気づいているかいないか、心配でたまらなかったんだもん。

 お父さんが言っても、なぜかお母さんは返事しなかった。

 だから……そっとのぞいてみたよ。

 すると、お母さんは……ラジオ体操をするかのように腕を伸ばしたり曲げたり、ぴょんと飛び上がったりしてたよ。

 あ、とあたしはおもった。

 きっと、これは、二人だけに通じるサインなのよ。

 だって、家の中は、監視カメラがいっぱいだからね。


 あ、お父さんがうなづいて、お母さんを引き寄せ、そのまま一緒に転がったよ。キッチンの配水管修理工みたい。

 え? いきなりお父さんが、お母さんの胸をあらわにしたよ……。

 ええっ、ここで!

 ゴクッとあたしは生唾を呑み込んだよ。

 すると、お父さんは、お母さんの乳首をつまむと、するするっと引っ張ったよ。回線がのびて……お父さんはその先端を自分の左耳に差し込んだ。

 そう、きっと盗聴防止のためだよ。

 あたし、知っているんだ。いつもね、二人はこうして、ほんの数分だけ、毎日、定期的に情報交換していたんだよ。

 あのね、あたし、ほら、天才少女ハッカーとして、その道でもちょっとは知られているから、いまのお父さんとお母さんがやってきて、しばらくした頃、お母さんが寝ているときに一時的に機能停止して、お母さんの乳首にあたしのアルゴリズムを忍ばせておいたの。だから、二人の秘密回線でのやりとりも、あたしには筒抜けなんだ。

 だってさ。

 ……あたしの本当のお父さん、お母さんは、新形太陽コロナにられてしまったからね。

 ううん、あたしだけじゃない、ほとんどのクラスメイトは、みんなそう。最初の頃、政府は、子どもたちを最優先に防護服グッズを支給してくれたから、製造に間に合わなかったお父さんの世代から上の人たちは、要人を除いて、みんなコロナにやられてしまったの。

 そっくり瓜二つのお父さん、お母さんを最初に見たとき、ってしまった二人が、変身して、あたしの目の前に現れたと勘違いしたほど。

 

 ええと……今のお父さん、お母さんの製造バージョンは、本当のところは知らない(だってね、秘密のうちに最新バージョンになっていたこともあるし、ね)けど、あたしにとっては大切な二人。いまでも、そう。

 だからね、お父さんお母さんが、あたしのために余計なことをしでかして、ポカしてしまって、壊されてしまったら大変だよね。


 だから、あたし、二人の秘密回線にアクセスして、やりとりを聴いたよ。


『おまえ、あの子が、枯れかけた芽に色づけして、成長しているように、ごまかしていることに気づいていたのか?』

『もちろん! 必死になって、我が身をまもろうとしているんだわ。なんだか、かわいそうで……私たちどう対処すればいいかしらね』

『本部に報告はしなかったのか? ……重大な規律違反だぞ……ま、おれもエラそうなことは言えない。だがな、次の定期検診には、国家安全保障局の上級幹部も同席するぞ! 今回ばかりはごまかすことは無理だろう』

『どうしよう……あの子をまもってあげなくっちゃ』

『うん、逃走の準備だけはしておいたぞ。あの子用の防護服とヘルメットも、おまえの提案どおりにしよう。対コロナ最強バージョンにして、あの子にプレゼントしてやろうよ』

『ラジャー! でも逃走するにしても、あの子、どこにやればいいのかしら?』

『そんなことまで、知るかよ! でも、いざとなったら、おれがを食い止める……そのすきにおまえはあの子を連れて……』


 そんなことを喋っていたよ。

 思わず、あたし、涙がでたよ……。

 あたしにばかりに、お父さんお母さんにつらいおもいをさせてしまっていたんだ……。

 どうしよう、どうしたら……。

 でも、そんなことで悩んでいるうちに、ついにきたよ、その日が……。

 いつものドクターなら、なんとかやり過ごせそうなんだけど、お父さんが言ってたように、手強てごわい相手……。さあ、どうしよう、どうしよう……。

 あっ、やっぱり!

 上級幹部が、あたしの頬をみるなり、異常に気づいたよ!

 どうしよう、どうしよう……。あっ、いつものドクターが怒鳴られてる……。

 ええと、ああ、どうしよう……。

 あっ、お父さんが、責められてる……。


 あたしは立ち上がった。

 あたしは、戦うんだ。

 お父さんを助けなくっちゃ!

 いまこそ、お父さんお母さんの恩に報いる時だ……。

 

 すかさず、あたしは、ドクターが持っていた検査用メスをもぎとった。

 そして……上級幹部を、思いっきり、刺す、刺す、刺した……よ。

 上級幹部が倒れた。

 お父さんは、呆然としたまま、あたしの顔をみた。

 なんだか悲しそうな顔。

 あんなお父さんの表情、初めてみたよ。

 でも、お父さんは……何も言わない、何も聴かない、なにも叱らない……。

 そのとき、駆け寄ってきたお母さんが、あたしの手をぎゅっと、握った。

 お父さんを残し、あたしはお母さんにヘルメットをかぶせられたよ。

 あたらしい防護服……じゃないか、なんかぎだらけの防護服を着せられたよ。そしてあたしは、お母さんと二人で、外へ、まっしぐら。

 そこは、光がいっぱい。

 危険な光が、いっぱい。 

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