一方通行

葵羽

第1話 友達の家

俺、香川太一かがわたいちは学校でいつもおとなしく、授業の休み時間には一人で黙々と本を読み進めるような少年だった。そんな太一がある日、同級生の家に初めて遊びに行くことになった。

(俺が友達の家に呼ばれるなんて。しかも女の子。女の子と話したことなんてないし、どう接すればいいのかわからないよ…)


「太一くん、オレンジジュースでいい?」

「は、は、はい」

「お母さん、オレンジジュース2つとおやつくーださい」

亜以子あいこは運ばれてきたオレンジジュースを飲みながら、おやつを口いっぱいにほおばった。

しかし運ばれてきたおやつに伸びる手は一本しかない。

「太一くん、もしかして緊張してる?」

「だって…誰かの家に遊びに来るのも初めてだし、女の子となんて話したことないから…」

「亜以子と話すの嫌?」

「別に亜以子ちゃんが嫌とかじゃなくて、ただ何を話せばいいかわからないだけで…」

亜以子はクラスでも学級委員をするぐらいのしっかりした女の子で、女の子と話したことがない太一にも積極的に話しかけてくれた。


「じゃあまたね、太一くん。今日は来てくれてありがとう。」

「こちらこそ、楽しかったです。ありがとうございました…」

 そうして別れを告げた太一は、家への帰り道はこのことで頭がいっぱいだった。

(でも、なんで僕なんかが亜以子ちゃんの家に呼ばれたんだろう)


やがて太一と亜以子は小学校を卒業した。亜以子は親の仕事の都合で県外に引っ越すことになり、太一とは別の中学校に通うことになった。

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