過去と未来の現在予想図
神納木六
第1話 決行
xxxx年 8月某日
入手困難な劇薬xも、なんとか苦労して手に入れた。
それからバスカプセルに満たした水と、そこへ繋ぐケーブル。自分の体内を空っぽにする為、食事も昨日から丸一日抜いたし、さらに下剤も飲んだ。瓶の中の劇薬xは液体で、これを体内に満たしてからバスカプセルに全身浸かる事で私は固形ではなくなる。そこから繋いだケーブルに流れる高圧電流で、成功すればきっと、この世界から消えることが出来る。はず。
劇薬xは無味無臭で、簡単に飲み干すことが出来た。ただの水を掴まされたのでは?という不安も一瞬頭を過ぎったけれど、失敗したとしても感電死という運命が待っているだけだ。恐れることはない。
バスカプセルに沈むと、縁に垂らしていたケーブルが私の体積で増えた水に触れ、バチ、と閃光が走ると同時に目の前が真っ白になった。
何も見えない。何も聞こえない。
私の意識は、そこで途切れてしまう。
「---ねえ、大丈夫?おーい」
目を覚ますと、傍に誰か立っている。
「いっ…」
地面に倒れ込んでいたようで、身体のあちこちが痛い。転んだというより、全身が筋肉痛になったようにビリビリとしていてうまく立ち上がれない。
「大丈夫かいな?こないな所で倒れとったからびっくりして声掛けたんやけど、具合でも悪いん?家近いなら送るで?」
同じくらいの年頃に見えるが少し変わった喋り方のその子を見上げると、後ろに大きな電波塔がそびえ立っていた。
家と言われても、私は家のバスカプセルに入っていたはずで・・・そうだ!私はバスカプセルに入ったのだ。
一気に目が覚めて辺りをぐるり一周見回す。
見た事のない公園に、私は居る。目の前の人と。
「あの、ここは何処でしょう?」
私の質問に、持っていた棒アイスを取り落としそうになりながらその人は驚いた。
「どこって、ここは笹真やろ。もしかして頭でも打ったんか・・・?救急車呼んで来るわ!待っとって!」
「わっ、待って待って!待ってください大丈夫!」
今にも走り出そうとするその人を引き止めて、状況を整理する。
「えっと。ここはササマ、ですよね?今の西暦と日付もよかったら教えて欲しいのですが・・・」
いよいよ不審者を見るような顔つきになったその人だが受け答えはしてくれるらしい。
「1960年、今日は8月2日やけど・・・」
「1960年というと・・・昭和」
「昭和35年や」
どうやら私は無事に成功したらしい。
過去へのタイムスリップに。
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