第十八節:マーチン記念館Ⅱ
「――なんだ、ホントに小さいんだな」
ケイラは意気消沈した様にそう呟くと建物横の立て看板に目を移した。
「入館料、5ドル…だって」
そう言って振り向いたケイラの表情は、明らかに不満げなのが分る。
「こんなしょぼい記念館で入場料5ドルってのは高すぎないか?」
そんな事はあたし達に言われても、何とも言いようが無い、5ドルだと言われればその金額を払うしか無いではないか。こんな処にケイラは妙に敏感だ。良い主婦に成りそうな気がするのはあたしだけでは無い筈だ。
「しょうがないよ、高いかも知れないけど、それで何か手掛かりが掴めるのなら、安い物では御座いません事?」
スェルはそう言うと、チケット売り場を探し出し、とっとと入場券を購入しようとして居ます。あたしとケイラもその後に着いてチケットを購入すると、皆で記念館の中に入って行った。
★★★
薄暗い館内には年代別に「マーチン」一家が、この惑星『パピル』で、如何に苦労して開拓に従事したかが模型を交えて展示されいた。
「普通の博物館…ですわね」
スェルのちょっと落胆した声が館内に響く。石造りの建物の中では声が良く反響する。少し大きな声を出しただけでも、その声は驚くほどに響き渡り、あちこちからこだまの様に聞こえて来た。
「まぁ、先ずはざっくり見せて貰いましょ」
あたしはそう言って、二人の先頭に立って館内を巡り出した。
年表や資料を見た感じだと、この惑星『パピル』は当時の宇宙連邦政府の鳴り物入りで開拓が始まった星らしかった。
公共事業としては、破格の予算が投入され、地球と同規模の星になる筈の物だったらしい。しかし、現在の星の状況は、人口も地球の十分の一程度しか無いし、これはと言う産業も無い極めて中途半端な状態となって居た。
――開発は失敗したのだ。
当時、その責任を取って、連邦政府の官僚が何人か更迭され、その後辞職して居る事が記録に残っていた。しかし、役人の人事異動に過ぎない事から、誰がどう更迭され、その後どうなったか迄は記録に残って居ないらしく、年表上にもその事は全く書かれて居なかった。
「ねぇ、あれはなんですの?」
スェルの指さす方向には、開発時、掘削工事で出た鉱物の標本が飾られて居た。
「ああ、温泉なんか掘ると記念に摂っておくあれだろう?」
ケイラが妙な物の例えをしたが、それは極めて的を得てはいるとあたしは感じた。小さな瓶に入った鉱物が所狭しと展示されて居た。一つ々に何か説明がなされていたが、それが意味する処は、此処に居る三人には理解出来なかった。そして、あたし達三人の目を釘付けにしたのは、真っ赤な鉱物が入った瓶…
「これ…」
あたしはそれを指差して皆に向かって振り向いた。ケイラもスェルもどうやらそれが気になるらしくて皆で、その鉱物の説明書きを読んだ。あたしはバッグからメモ帳を取り出すとそれを書き止めて、後で学校の図書館で詳細を調べようと考えた。
その赤い鉱物は、学園のスミレの色と酷似して居たのだ。あの赤は、この鉱物の性なのだろうか、あの赤いスミレは。元々黄色。それが赤くなる理由。それは赤い色素を吸い上げて居るから。そして、その鉱物は此処に有る。
「これの正体は、何か書いてない?」
あたしはケイラとスェルに尋ねて見たが、彼女達もラベルに書いてある以上の事を知らなかった。いや、二人とも、この鉱物には初対面だった。こんな物が有る事自体、知らなかったのだ
「マーチン一家」が探し当てた物…それはまさにこの鉱物なのだ。そしてこれの正体を突き止める事が、生徒会の謎に近づく事になるのだろうと考えた。
「マーチン記念館」の中をあたし達は二時間ほどうろつき回ったが、赤い鉱物意外、めぼしい物は見つける事は出来なかった。
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