第十七節:マーチン記念館Ⅰ

 放課後の図書室に悪企み同好会の面々が適当に散らばって、それぞれ調べ物をする。


 ケイラとスェルは『学園史』マーチン一家を含むこの星と学園の関係の洗い出し、ナルルとユキは『赤いスミレ』が本当に存在しないのかを図鑑とユキの携帯端末から民間のデータベースに接続して調べる。あたしは、この学園の見取り図。それぞれが調べて結果を夜集まって報告し合う事にしたのだ。


 こう言う事は、どうして燃えるんだろうか?イケない事はこれだから止められない。血がふつふつと沸いて来るのを感じる。そして、生きてるんだなぁとも。


★★★


「と、言う訳です…以上」


 スェルが開拓史と学園の関係について説明したが、結局新しい事実は出て来なかった。この学園内で調べる事はやはり無理なのであろうか…


「で、やっぱり気になるのは、このマーチン一家が何を見つけたかですよね」


 スェルは怪訝そうな表情でそう言いながらクッキーを一つ口に運ぶ。


「――イースト宇宙空港の近くに『マーチン記念館』て、有りましたよね」


 ナルルが突然思い出した様にそう言った。それを聞いてケイラが意外そうな声でこう言った。


「え?そんな物有ったのか?」

「はい、物凄く小さな施設ですので知名度はあまり広く無い様です」


 成程、この星は観光開発を目的で開発された訳では無いのでそう言う施設に関しての案内が盛んでは無い。だから閑古鳥が鳴いてる施設も多々有る様なのだ。情報が集めれられるなら行ってみるのが手っ取り早いのだが…


「入寮中の身は寮から出られませんわ」


 ナルルがちょっと残念そうにそう言った。しかし、あたしは伊達にこの学園の見取り図を調べて居た訳ではない。


「行きましょうよ、皆で見に」


 悪の限り同好会全員の視線があたしに集まる。あたしは小さく頷いてから、コピーして来た学園の見取り図を机の上に広げて皆に見せた。


「良い、この学園は、周りを高さ5メートルの塀が囲んでる。普通に考えたら出る事は出来ないのはご存知の通り」


 しかし、盲点は有る。この前の反省室だ。


「用務員のお爺さんが使ってる出入り口は学園唯一ノーマークの場所、此処からなら外に出る事が出来るのよ」


 あたしは図面上南の端に有る詳細が何も書かれて居ない部分を指示してそう言った。それに、あの用務員はあたし達の味方に成ってくれそうな気がした。確証は無かったけど、あたしに対して生徒会を洗い直す様に助言をくれた。彼は何かを知って居るのか?それとも…

 かく、頼れる物はこの際なんでも頼る事にしよう。それが生徒会の謎を解く事になるので有れば。


「外に出るのは、あたしとケイラとスェル。ユキとナルルとは残って、もしあたし達が外に出た事がばれそうになったら何とかして誤魔化して欲しいの」


 あたしのその提案にナルルがちょっと困った表情で答える。


「誤魔化せと言われましても、居ない事を誤魔化すのは難しいですわ…」


 確かに居ない物を居る様に見せるのは難しいし誤魔化しきれないかもしれない。でも、其処はユキとナルルを残す意味だ。この二人組なら何とかしてくれる、この二人は、はっきり言って怖い。いざとなると発想がぶっ飛ぶに違いない。それを期待しての残留依頼だ。


「手段は選ばないで。何しても構わないから」


 二人は暫く顔を見合わせてからあたしに向き直ると小さく頷いた。これで、この学園からの脱出プランは、ちょっと危なっかしい物が有るが、出来た。後は皆の度胸が物を言う。其処に期待してその日は解散となった。


★★★


「なんだよ、その格好は…」


 ケイラがスェルの姿を見てちょっと眉を顰めた。


「あら、理由はどうあれ、外出ですわ。皆に見られるんですよ、恥ずかしい恰好はできませんわ」


 スェルは白のひらひらのワンピースにつば広帽子、ゴールドのネックレスをじゃらじゃらと下げ、歩きにくそうなハイヒール…有る意味怪しい恰好になって居る。あたしとケイラはジーンズにTシャツにスニーカーと言う小ざっぱりした格好であたしもパーカーの軽装。

 まぁ、恰好はともあれ、先ずは、学園から脱出しなければならない。三人揃って反省室に忍び込み、用務員さんを探す。


 彼は、通路を掃除して居る最中だった。


「ほう、外に出たい?マーチン一家の事を調べる。成程のう」


 用務員は相変わらず芝居じみたアクションで三人に向かってそう言うと、あたし達を学園の裏口に案内してくれた。


「ありがとうございます」


 あたし達は、揃ってそう言うと、学園を後にしてイースト宇宙空港行きのバスに乗る為、近くのバス停に向かって歩き出した。


 非公式とは言え、久しぶりの学園外、あたしのテンションは少し上がり気味、なんだか暴走してしまいそうなのを、ぐっと堪えて目的地に向かってあるきました。でも、ケイラとスェルも気分は同じらしく、久しぶりの外出を楽しんでいる様でした。


「ね、あそこ、アイスクリーム屋さんじゃない?」


 スェルが道の反対側を指差して、子供が親に何かをねだる様な表情をあたし達に向けました。


「――スェル…道草はちょっと…」


 ケイラがそう言ったのですが、その時既にスェルは道の反対側に飛びだして居ました。同時に車のクラクションが響きます。


「こら、気ぃつけろ!」


 スェルにぶつけかけた運転手は、窓から顔輪出して、そ叫ぶと、何事も無かった様に走り去りました。


「もう…」


 ケイラがそう言ってスェルの頭をこつんと叩きます。


「――ちょ、ちょっとはしゃぎ過ぎてしまいましたね…」


 スェルはあたしとケイラを交互に見てから、こほんと、ひとつ咳払い。そして、皆でアイスクリームを食べてから、改めて「マーチン記念館」に向かった。

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