第十五節:生徒会の陰謀Ⅱ
ドアと窓には鉄格子、石造りの冷え々とした室内には薄い毛布と堅そうなマットレスのベッド。トイレは一応壁で仕切られては居るが十分遮蔽されてるとは言えなかった。
まさしく「独房」を思わせるその風景には言い知れない威圧感が有る。あたしは両腕をクロスして、自分で自分の肩を抱いた。そして、改めて部屋の中を見渡した。
「おやおや、こりゃぁ珍しい、この部屋を使うのは何年ぶりかな…」
反省室の中にしわがれた老人の声が響く。
あたしは、その方向に反射的に視線を向けた。其処には100歳を裕に超えると思われる老人の顔。あたしは不意を突かれて、思わず声をあげそうになった。
「まぁ、そう、怖がりなさるな。多少歳は取っておるが、同じ人間じゃ。取って食おうなんて考えてはおらんから安心せい」
老人は芝居じみた口調でそう言うと。あたしにくるりと背中を向けて壁の方に向かってゆっくりと歩き出した。
「――あ、あの、――お爺さん…何処から此処に…」
部屋のドアには鍵が掛けられている。出る事も入る事も不可能な筈だ。
「なに、入口は其処に有るさね」
老人が指差す薄暗い方向に目をやると、確かにもう一枚ドアが有る。つまり、この部屋は密室では無いと言う事だ。
「この学園に預けられているのは、曲がりなりにも名家のお譲さんじゃからな。もし、万が一の事が有っては学園側としても言い訳が出来ないんじゃ。この部屋は反省の象徴、それ以外の意味は無いんじゃよ」
急速に安堵感が広がる。取りあえず安心は出来る。そうよ、確かに独房で一人きりなんて危ない事極まりない。
「で、お前さん、何をやったんじゃ?」
老人はゆっくり振り向くと好奇の目であたしを見ながらあたしにそう尋ねた。
「あの、お爺さん…お爺さんはこの学校の…」
「わしか?わしは用務員、雑用係じゃ。ここに努めてもう120年以上になる」
「――120年?」
「そうじゃ。我ながら我慢強く務めたものじゃと思うわい。その性か、ちょっとは知恵がついとる。この学園の事なら大概の事が分るわい、自慢じゃ無いがな」
老人はそう言ってぎこちなくウィンクすると自分の頭を人差し指でつついて見せた。
あたしは、ひょっとしたら、物凄いチャンスに遭遇してるのでは無いかと意気込んで、老人にこの学園の疑問について聞いて見た。
「じゃぁ、じゃぁ教えて欲しいの。この学校はどうして携帯端末を持ち込んだだけでこんな目に会わされるの?携帯端末なんて生活の必需品じゃぁない」
老人は不敵な笑みを浮かべ右手の人差し指を振りながらあたしに向かって、こう答えた。
「マーチン一家の事は知って居るかな?」
マーチン一家はこの学園の創立者でこの星の開拓者でも有る。あたしは老人に向かって大きく頷いて意思表示して見せた。
「宜しい。彼等はネットワーク関係の技術者だった。この事も知って居るかな?」
あたしは再び頷いて見せる。
「彼等は、この地でもネットワークシステムを構築してセオリー通りの開発を続けて行った。そして街が出来、初代マーチンは政治家として街を統治する様になったのじゃ」
成程、良くある話だ。小さな街が点在し始めたら、今度は通信方法を充実して行こうとするのは良く有る話決して珍しい事では無い。
「だが、マーチン一家は、有る時から積極的なネットワークの構築を止めた…いや、否定し始めたのじゃよ」
「否定?」
「さよう、否定じゃ。電子ファイル、電子書籍、その他電気的に保存されておる物全てじゃよ。全く信じられん事じゃ」
老人は、ぎょろりとした目をあたしに向けて、オーバーアクションで、これまた芝居がかった仕草であたし向かってにそう言った。なんだか一人芝居でも見て居る様だ。
「でも、それじゃぁ開発が止まっちゃうじゃない?デメリットの方が大きくて割に合わないんじゃ」
「その通り、しかし、彼等はあえてそれを否定したのじゃ――何故か?」
あたしは、ごくっと唾を飲み込む。
「何故か――?」
数秒の沈黙だった筈だが、永遠と思われる様な沈黙が続いた。
「――残念じゃが分らん」
あぁ、おちゃめな爺ちゃん…それじゃぁあたしの知識と同レベルじゃないか。期待して損した。
「だが、何かを見つけたのじゃよ彼等は。それを独占する為に、少なくともこの星だけでも通信を封鎖する必要が有ったと言う事じゃ」
何かを見つけた?ふむ、何を見つけたのだろう。通信を封鎖して開発のスピードを落とす結果になるリスク以上の発見とは…
「まぁ、生徒会に探りを入れて見る事じゃ。奴らは叩けば埃が出る身じゃて」
何を言った?この爺様は。生徒会は叩くと誇りが出るのかい。何をやってるんだ彼女達は。結局謎が増えただけで何の進展も無い話をした老人は、開いている側のドアから腰に手を当ててゆっくりと反省室から出て行った。出て行く間際に、食事は普通に摂れるから安心しろと言い残して出て行った。
なんなんだ、この茶番は。あたしはなんだか全てがアホらしくなってベッドにごろんと横になりそのまま静かに目を閉じた。
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