第20話 森②
最近の発見は何か、と問われれば、ダントレだ、と答える。
ダントレとはダンジョンのゲート周りでするトレーニングのこと。略して、ダントレだ。
何のためにわざわざダンジョンまでって?
天気が変わらないんだ!これは大きい!
昔は雨が降ろうと強風が吹こうとトレーニングを敢行したが、普通は休みたくなるものだ。
そうして、休み癖というものは付くもの。それを予防できるのが、このダントレ!
欠点はゲート周りから離れるとモンスターに遭遇して一般人は……まあ確実に死ぬってことだけ。
この発見は世界を変えるかもしれない。しかし、みんなに真似されたら困るので口外しない。
最近では、アリスに武器の振り方も指南してもらっている。というよりは体の使い方、という方が正しいかもしれない。
『いい感じだよ。次は一歩踏み込んで振り下ろし!』
「ハァッ」
『続けて100本』
「1…2…」
体が多少悲鳴を上げても、このジョーくんとの共同作業は至福の時間だ。
ジョーくんが生まれた理由は明確で、モンスターを倒すため。
それなら、オレはそれを全力で助ける。そのためなら、腕がプチプチいっても気にならない。
「…99ッ…100ッ」
『お疲れ!』
アリスの終了を告げる声を聞き、寝転がる。
ああいい天気だ~。風もそよそよと吹き、眠りを誘う。
『ジョーくんって棒に名前つけたの?』
その質問を聞いて眠気が吹っ飛んだ。
よくぞ聞いてくれた。ああ!そうなんだ。いい加減、相棒を棒って呼ぶのも味気ないと思って、精一杯考えた。頑丈なところから、ジョーくん、だ。
『なんで、くん付けなの?』
ジョーくんは剣や斧みたいに相手に出血させることなく倒す、心優しいやつなんだ。そう思ったら、くん付けしてた。
『……ジョーくんでゴブリンの頭を何回もスイカみたいにしてなかったっけ?』
時々、ワイルドな一面も見せるんだ。
『そ、そう……』
~ ~ ~
今日も順調に狩りは終わり、ダンジョンから帰還してきた。
日が落ちる前で、まだ空が赤く見える。
サイラスの狩場に慣れてきたことで夕方には終わるようになったのだ。
いつも通りならサイラスに別れを言うところだが、今日は言うことがあった。
「サイラス、明日で契約は終わりにしよう。ちょうど1週間だし、サイラスのおかげで森のモンスターにも慣れてきた。今のオレならサイラスの狩場を使わなくても大丈夫だと思う」
サイラスには感謝していた。
契約とはいえ、サイラスの効率的な狩場を使わせてもらい、かつ、サポートまでしてくれた。それにより、より効率的に、かつ、安全に森への適応ができたのだ。
どちらかと言えば、サイラスをこれ以上、オレに煩わせたくない思いで契約解除を申し出た。
「そうか。オイラも鈍ってこないか心配だったし、ちょうどいいよ。じゃあ明日もよろしく」
「ああ。お礼ってわけじゃないが、困ったことがあればなんでも言ってくれ。力になるぜ。契約じゃないけどな」
「……気持ちは頂いておくよ」
ただサイラスとは妙に心の距離を感じるのが気になる。
~ ~ ~
サイラスと別れた後、再度ダンジョンに戻ってきた。
森のモンスターにレベルは大分適応できたと思うんだけど、どう思う?
『わたしもそう思うよ。もしかして、アサシンモンキーを倒しに行くの?』
ああ。倒せれば、晴れて4級冒険者だ。
アサシンモンキーは隠密性能こそ脅威だけど、本体の強さに関しては注意しろって話はなかった。
アリスがいれば、オレなら問題なく狩れると判断した。
サイラスの狩場にはアサシンモンキーは出ない。
オレはいつもとは離れた場所から森に入っていく。
迷子にならないように木に目印を付けながら移動する。
この辺は暗い。木立が密生していて、日があまり差し込んでこないのか。
『ヒョウ、前にゴブリンハンターだよ』
オッケー。もはや作業のごとく倒せる相手だ。
素早く近づき、振り下ろしを喰らわせる。それだけでゴブリンハンターは沈黙した。
『後ろの方から近付いてくる。多分アサシンモンキー。木の上を移動してるから注意して』
全然分からなかった。
このタイミングの良さからして、おそらくは相手を倒した緩みを狙うのが常套手段だったのだろう。
すぐに振り向き、上方を警戒する。
木と木の間を飛び回っているのが一瞬目に映ったが、降りてくる気配がない。
まさかこっちが隙を見せないと攻撃してこない?だとしたら、それはかなり厄介だ。
『わたしに任せて。来るタイミングで方向を指示するから反応して』
了解!
―――おそらく、前から攻撃してくることはないだろう。
視線は前方に向けつつ、全意識をアリスの声に向ける。
『――――――右後ろッ!』
その言葉に全速で反応し、右後ろに向けて上半身のみを捻り、ジョーくんを振りぬく。
―――そこにモンスターがいることを、そしてアリスの言葉を信じて!
見ることを省いた攻撃はアサシンモンキーの伸ばす爪より先に届いた。
ヒットしたと思った瞬間、後ろを振り向く。
アサシンモンキーはその細腕を折られ、痛みに悶絶して地面に転がっている。
攻撃はアサシンモンキーの腕に当たったようだ。
―――逃がしては堪らない!
オレは素早く駆け寄り、最も威力に優れた一撃、振り下ろしを放つ。
……アサシンモンキーはもう動かない。
やったぞ!アリス、お前のおかげだ!
『えへへ。ヒョウもいい反応だったよ』
サイラスが狩場にアサシンモンキーを避けるわけがよく分かる。
本当に面倒なモンスターだった。二度と戦いたくない。
とにかく、これでこのダンジョンの全モンスター討伐完了だ。
4級冒険者に昇格できるぞ。
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