第18話 森①

「お待たせ、ヒョウ」

「ああ、今日はよろしく。サイラス」


ゲート前で集合し、一緒にダンジョンへ入る。


「予定通り、サイラスの誘導に従うよ」

「じゃあ、オイラについてきてくれ」


先導するサイラスの後を追うこと、十数分、森に着いた。


「オイラのすぐ後ろをついてきてくれよ?」

「?……ああ」


森に入っていく。

森の中は木々に囲まれ、音も反響するから中々モンスターの位置を特定しにくい。

そういうところをフォローしてもらえるのは助かる。


入って間もなく、サイラスがハンドサインで前へ行け、と指示する。

なるほど。この先にモンスターがいるのか。


オレは素早く前へ出ていく。


茂みを下半身がかき分けていく―――が、音は出てない!?

サイラスをチラッと見ると、頷く。

サイラスがやっているのだと理解し、遅れて、これはサポートなのだと理解した。


茂みの先にいたのはマッドスパイダーだ。


少し距離が離れているが、まだこちらに気付いていない。

昨日はあいつの糸に警戒して中々近づけなかったが、これなら―――気付かれる前に距離を大きく詰められる。


気付いたマッドスパイダーがこちらに尾を向けようとしてくるが、既にこちらは振り下ろすところだ。

駆け抜けた勢いをそのまま棒に伝える。そしてマッドスパイダーの体へ叩きつけられた棒は込められた力を発散する。

その衝撃に体肢をバラバラにしてマッドスパイダーは絶命した。


やっぱりこいつは遠距離攻撃の糸こそ面倒だが、本体は脆いな。


後ろから見ていたサイラスがこちらに寄ってくる。


「次いこう」


後ろをついていく。

歩きながら、疑問をぶつける。


「さっきの音消したのは魔術だよな?」

「そうだよ。オイラはこの魔術を使って、狩場をより安全に周るんだ」

「なるほど。サイラスのサポートのおかげで敵が気付く前に接近できて楽ができたよ」

「気にしなくていいよ。早く終わればそれだけオイラも早く帰れる」


サイラス……いいやつじゃないか。


しばらく無言で歩いていると―――サイラスのハンドサインが目に入った。

すぐにサイラスの前に出て、茂みの奥を確認する。


あいつはゴブリンハンターだ。

見た目には、手に持った短刀しか普通のゴブリンと違いがない。


オレは気付かれない内に茂みから飛び出す。

しかし、サイラスの魔術効果外に出て、周りの木々から音が鳴ってしまった。


ゴブリンハンターはそれに気づき、戦闘態勢に入った。


まだ向こうの間合いの外であったが、短刀を突き出してくる。

こちらの行動を予測してのカウンターだろう。

しかし、遅い。オレは棒で振り払う。


棒はゴブリンハンターの手を強打し、短刀はあらぬ方向へ飛んでいく。

ゴブリンハンターは短刀が飛んで行った方向を見つめて放心状態になった。


「ハァッ」

―――もっとも慣れた、単純な振り下ろしをゴブリンハンターに喰らわせる。


沈黙したゴブリンハンターを確認して一息つき、今の戦闘を振り返る。

見た目だけでなく、行動も普通のゴブリンに武器を持たせました、って感じだった。

短刀のリーチ外から攻撃する限り、リスクはなく狩れそうだ。


ゴブリンハンターはそう間をおかずに消滅した。離れて落ちていた短刀も一緒に消える。

あれもモンスターの一部として扱われるんだな。改めて、ダンジョンってところは現実とは違うルールの上に存在しているのだと思う。


残念ながら、レベルが高くなる気配はなかった。どうやら、普通のゴブリンや角ウルフと同格のようだ。


サイラスが近付いてきて口を開く。


「オイラの狩場にはゴブリンハンターとマッドスパイダーしかいないから、今の調子なら問題なく周れるだろう」

「アサシンモンキーはいないのか?」

「あいつは唯一、木の上にいることもあるんだ。不意打ちをくらう可能性を考えると相手にしたくないから、あいつの出ないルートを考えたんだ」

「それは厄介そうだ」


でも―――


『わたしなら木の上でも分かるよ!』


ああ。アリスがいれば、アサシンモンキーはむしろ美味しいかもしれない。


~ ~ ~


狩場を周り終えてダンジョンから出ると既に外は暗くなっていた。


「今日の分の9千ゴルだ。受け取ってくれ」


そう言って、サイラスに金を渡す。


「じゃあ明日も同じ時間に」


サイラスはその言葉を残して去っていった。


今日の成果はゴブリンハンター5体、マッドスパイダー5体で総売却額は8500ゴル。


サイラスは確か最初1日1万ゴルとか言ってたよな。

『吹っ掛けてたんだね』


油断できないやつだな。

やはり、あいつのいるところで〈重量増加〉は使えない。


~ ~ ~


魔術が発現したその日の夜、オレはアリスと相談しながら検証を行っていた。


〈重量増加〉は手のひらで触れたものの重さを増す効果だ。

自分には効果がなかったから、おそらく非生物にしか使えない。

そして、その効果は自由に消すことができない。


効果の解除条件は、約3分経過を待つこと、もしくは、オレと距離を離すことだ。

オレと離れれば離れるほど軽くなっていく。大体3メートルも離れれば元通りだ。


『使い方が難しいね』


そうなんだよなあ。最初は当たりだと思ったが、とんでもなく使いにくい。

普通に戦っててオレが手のひらで触れることができるのは棒しかない。

しかし、棒を重くしても1度振り下ろすくらいしかできず、それをしたあとは棒を持ち上げることすらできなくなる。


人相手なら服を重くして距離を取らせない戦い方もアリかもしれないが、モンスター相手にはその手も無理だ。


『無理に使わなくてもいいんじゃないかな』

……そうだな。アリスに教えてもらってる技があるし、そっちの方がよっぽど使えそうだ。


『うんうん。実戦で使えるようになるのはまだまだ先だけど、焦らないでね』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る