異世界婚活 - イセカツ 信じるものしか救わない神様はセコいのか?

妹小路ヘルヴェティカ

異世界小説家、異世界に喚ばれる。

第一章 1-1 異世界小説家、人生の絶頂から滑り落ちる。

 今日、僕はピークを迎える。

 人生のピークを。

 僕、堀江咲也、この世に生を受けて二十余年――遂に、人生最良の時を迎えるのだ。


 どうして【最良】と断言できるのか?

 まぁ、その疑問ももっともだよね。


 人生のピークなんて、人それぞれ。

 大学や高校受験、人によっては小中学校や幼稚園のお受験がピークって人もいるかもしれない。

 あるいは就職。

 大手一流企業の新卒内定を受け取った時が最上! と信じる人もいるだろうし、

 出世を重ね、社内ヒエラルキーのトップに立った時が頂点! と考える人もいるだろう。

 もしくは恋愛。

 恋い焦がれた最愛の人と結ばれた式こそが、人生で最も華やかな場面と感じてもいい。

 いつが「ライフ・イズ・ビューティフル!」の最高到達点なのか、人によって千差万別だ。


 でも、僕のピークは、どれでもない。

 これから間もなく、迎えるであろう瞬間こそが「絶頂」なのだ。


「天にましまたっとき神よ! 我に吉報、もたらし給たまへ!」

 僕、堀江咲也は大麻おおぬさをバッサバサと振り、神棚に叫ぶ。

 三日月に懇願した山中鹿之介ばりの勢いで。

 額には必勝祈願の日の丸ハチマキ。背には縁起物の破魔矢を背負い、詰め襟の裏地には何十もの御守りが所狭しと縫い付けてある。

 全力である。

 全力の神頼みである。

 人事は尽くした。やれることは全部やってしまった。

 だからこその、この格好だ。


 『連撃文庫 三次選考通過作品』


 コンペの公式webを何度見返しても! 自分の作品が選に残っている! 信じられない!

 それを確認するたびに僕は狂喜乱舞する――が、逆に言うと、あとは神頼みしか残っていない。

 今更、応募作品に手を入れることは不可能。

 『どうか最終選考で大賞に選出されますように!』

 と祈るのみ。


 僕は待った。

 スマホを握りしめ、悶々と、身悶えしながら待った。

 未登録番号から連絡が来るのを、一日千秋の思いで待ち続けた。


 そして、いよいよ――今日が最終選考の結果発表日である。


「来い! 来てくれ! 頼む!」

 僕の書いた作品『ありふれた職業で異世界チート魔術師スレイヤーと聖約の戦乙女と奴隷魔術オンラインはスマートフォンと共に』は、王道中の王道、異世界を舞台にしたスーパースペクタクルハーレムロマンだ。既存の人気作を徹底的に研究し、苦心惨憺の末にヒネり出した自信作である。

 内政チート、俺TUEEE!!!!、ハーレム、悪役令嬢、追放復讐譚……今どきの読者が望む要素を詰め込み「これで当たらなきゃ嘘だろ」ぐらいの完成度を誇る逸品! と自負しているが……

 敵は連撃文庫である。

 ラノベ作家の登竜門として、最高峰とほまれ高いコンペである。

 競い合う候補作は、選りすぐりの実力派ばかりだろう。

 なので、

「どうか神様! お頼み申す!」

 精一杯、神頼みである。全身全霊、不惜身命、粉骨砕身、ただ祈るのみである。

 キャンプ用の焚き火台で燃える『祈りの火』に向かって。

「おねがいしますおねがいしますおねがいしますおねがいしますおねがいしまする…………!」

 この関門さえ突破できれば……僕の望みは・・・・・全て叶う!・・・・・

「――――神よ!」

 一心不乱に大麻おおぬさを振り、神棚に祈る。

 来い!

 頼む!

 来てくれ!

 神様仏様アラー様キリスト様、その他、洋の東西宗教宗派を問わず、誰でもいい!

 僕の作品に神の御加護を!




 そして、遂に――――【その時】は訪れた!

 ピリリリリリリリ!

「はいっ!」

『堀江咲也さんの番号で、お間違えないですが?』

「はいっ! 堀江です! 僕が堀江です! 堀江咲也です!」

『私、連撃文庫の田村と申しますが……』

「はいっ!」

『おめでとうございます、今回、あなたの作品が…………』


 ガシャーン!


『堀江さん? どうかなされましたか? 堀江さん? ……堀江さーん?』

 フローリングに落ちたスマホ。

 亀裂の入った画面から、僕を呼ぶ声は続いたが……それに応える僕は存在しなかった・・・・・・・


 その瞬間、堀江咲也という人間は――――忽然こつぜんと姿を消した。

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