19:告白
二学期の終業式当日。
この日は12月24日のクリスマスイブだ。
俺と瞳ちゃんはクリスマスデートをするために、一度家に帰ってから洋服に着替えて待ち合わせをした。
学校終わりに集まるので、あまり時間はないけれど、イタリアン料理のお店を二ヶ月前から予約していたので、そこでディナーをしてから、イルミネーションを見に行く予定になっている。
今日まで瞳ちゃんとはたくさんデートをしてきたけど、いつもと違ってとても緊張をしてしまう。
というのも、クリスマスイブに改めて瞳ちゃんに告白をすることになっていたからだ。
俺は急いで待ち合わせ場所に行くと、すでに瞳ちゃんは俺のことを待ってくれていた。
俺は瞳ちゃんの今日の私服を見て、さっきよりも激しくドキドキとしてしまった。
瞳ちゃんは、袖口と首元にモコモコのファーが付いている真っ白なコートと、それに合わせた白いブーツ姿でいつもよりとても可愛らしかった。
俺がボーッと瞳ちゃんを見てると「へ、変だったかな?」と少し不安そうな顔をした。
「いや、違う。逆、逆だよ! あまりにも瞳ちゃんが可愛かったから。だから見惚れちゃったんだよ」
「そ、そうか……。じゃあ良かった。――えへへ。今日ね。この日のために洋服買って準備してたんだ。だから褒めてもらえて嬉しいよ」
「そ、そうだったんだ。それは俺も嬉しいよ」
何?
今日の瞳ちゃんどうしたの?
いつもより可愛らしさが半端ないんですけど!?
瞳ちゃんははっきり言って滅茶苦茶モテるのだ。
あんなことがあったので、クラスメイトからは告白されることなどはないのだが、別のクラスや先輩から何度も告白をされている。
まだ瞳ちゃんを好きになってない人でも、今日の瞳ちゃんを見たらアッサリと恋に落ちるだろう。
それくらい可愛らしかったのだ。
「あのね……。鼓太郎くんもとてもかっこいいよ」
ちょっと上目遣いで目を潤ませながら、俺のことをかっこいいって言ってくれる瞳ちゃん天使すぎてヤバイ!
俺はいつもより緊張してしまって、「お、おぅ。じゃあ、行こうか」と言ってまずはショッピングを楽しむことにした。
街はキラキラと輝いていて、歩いているだけでワクワクとしてきてしまう。
「なんか歩いてるだけでも楽しいね」
瞳ちゃんも同じことを考えてくれていたらしい。
同じものを見て、同じことを感じて、それを素直に共有できる関係がとても幸せだと感じる。
百貨店に入った俺たちは、何軒かお店を見ていると一つのアクセサリー屋さんで、瞳ちゃんが「うわぁ」って声を出しながら見入っていたヘアアクセサリがあったので、それをプレゼントしてあげることにした。
「そ、そんな。悪いよ……」
「良いんだよ。だって、このためにバイトをたくさんしてたんだから。今日くらいはカッコつけさせてよ」
「う、うん。ありがと。――だけど、鼓太郎くんはいつもかっこいいよ?」
「あ、ありがとな」
どうした。
今日の瞳ちゃんは一体どうしたんだ?
なんかずっと目がウルウルしてるし、ずっと甘えた感じでペットリとくっついてくるし。
可愛さがゲシュタルト崩壊してるよ!
あまりに瞳ちゃんの可愛さに頭がパニック状態になっていると、気付けばイタリアン料理の予約時間が間近に迫っていた。
「あっ、やばい。予約の時間がそろそろだ。ちょっと急いでいい?」
スマートな演出をしきれない俺に瞳ちゃんはクスリと笑いながら、「うん。じゃあ急ごう」と言って俺の腕に自分の腕を絡めて来る。
本当に今日の瞳ちゃんは積極的だな。
―
「あぁ〜美味しかったね」
「あぁ、瞳ちゃんが食べてたパスタも最高だったよね」
「うん。あと鼓太郎くんがオーダーしたチキンも最高に美味しかったよ」
俺たちはイルミネーションが美しい街路樹の下をゆっくりと歩きながら、先ほど食べたクリスマスディナーの感想を言い合っていた。
実は瞳ちゃんは細くてスタイルが良いのに、とても食いしん坊なのだ。
たまにフードファイターなのってくらい食べるのに、こんなスタイルを維持できるんだから凄いなって思う。
多分胸に全部栄養がいってるんだと思うけど。
そんなことを考えていると、瞳ちゃんがジト目をしながら「なんか鼓太郎くん変なことを考えてないかな?」と聞いてきた。
何この子?
ひょっとして俺の考えてることが読めるのかな?
「い、いや。今日は本当に楽しかったなって振り返ってたんだよ」
「ふーん。じゃあ、そういうことにしてあげる。――だけど、そうだね。うん。楽しかった。本当に楽しかったよ」
瞳ちゃんが俺のことを見つめて、幸せそうに微笑んでいる。
その姿は背景のイルミネーションも相まって、本当に美しくてまるで天使のようだった。
俺は周りを見渡すと、タイミングよく誰も周りに人がいなかった。
「あ、あのさ。――瞳ちゃんに言いたいことがあるんだ」
「う、うん……」
俺の空気感が変わったことに気付いたのか、瞳ちゃんは少し緊張した面持ちになって俺の次の言葉を待っている。
「あれから瞳ちゃんとはたくさんデートしたり、瞳ちゃんの家に行って一緒にご飯作ったりしたよね。その全てが俺にとって大切な思い出になってるよ。――だから、だからね……」
俺は緊張してしまい、次の言葉がなかなか出せなくなってしまった。
すると、瞳ちゃんが俺の手を両手で包み込むように握ってくる。
「大丈夫。私はちゃんと聞いてるよ」
瞳ちゃんは俺の目を真っ直ぐ見つめている。
頬が赤いのは寒さだけが原因ではないだろう。
「――瞳ちゃん。俺は瞳ちゃんのことが大好きです。世界で一番大好きです。だから、俺と付き合ってください」
「はい。私こそよろしくお願いします」
瞳ちゃんからOKの返事をもらうと、俺はバッグから小さな袋を手渡した。
「これは?」
「クリスマスプレゼントだよ」
「え? だってさっき貰ったよ?」
そう。
実はイタリアン料理店でプレゼントを渡していたのだ。
「さっきのは友人として渡したプレゼントで、これは恋人として渡したいプレゼントなんだよ」
一瞬驚いた顔をしたと思ったら、次の瞬間瞳ちゃんの目からは大粒の涙が溢れていた。
「もう。こんなことされたら、さっきよりも鼓太郎くんのことが好きになっちゃうよ」
「はは。だって、これからもっともっと俺のことを好きになってもらいたいからさ。だから、瞳ちゃんも遠慮しないでね」
「うん。ありがと。――ねぇ、開けても良いかな?」
俺が「もちろん」と言うと、瞳ちゃんは丁寧に包装紙を外して、小さな箱を開ける。
「うわぁ。とても可愛いよ」
中にはキラキラと輝くイヤリングが入っていた。
瞳ちゃんのプレゼントを探しているときに、とても似合いそうなイヤリングを発見したのだ。
このお店はハンドメイドのアクセサリーブランドで、ピアスしかなかったデザインなのだが、なんとかお願いをしてイヤリングに変更してもらったのだ。
「気に入ってくれたかな?」
「うん。こんな可愛いの気に入らない人なんて絶対にいないよ。ありがと、鼓太郎くん」
瞳ちゃんはその場でイヤリングをつけると、幸せそうな笑顔を浮かべて俺のことを見つめてくる。
「これからもずっと一緒にいてね。大好きだよ、鼓太郎くん」
「あぁ、俺も大好きだよ。毎年クリスマスを一緒に凄そうな」
「うん。絶対だからね?」
俺たちが一緒にいるきっかけになったのは依存だったかも知れない。
だけど、今は本当に相手を必要として、相手のために尽くそうとお互いが思えている。
悲しい過去を乗り越えた俺たちなら、この先何があっても乗り越えていける。
そんな気がするのだった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
次のお話で完結になります。
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