12:虐め

「弥生ちょっといいかしら?」



 コタくんのことを振った翌日。

 私は瞳ちゃんに声を掛けられて、昨日と同じ体育館裏に来ていた。



「ねぇ、弥生。鼓太郎くんに聞いたわよ? どうしたの? 何があったっていうの?」



 瞳ちゃんは、私のことを本当に心配しているみたいだった。

 まさか瞳ちゃんがそんなに演技が上手だったなんて知らなかったよ。

 そんな嘘の心配をしてくる瞳ちゃんに、私は怒りを抑えることが出来なかった。



「どうしたのじゃないわよ! 私のことを裏切ったのはあんたと浜崎じゃないの!」


「え? 裏切ったって何? 私と鼓太郎くんが弥生の何を裏切ったというの?」


「しらばっくれるんじゃないわよ!」



 私はそういうとミチルからもらっていた、2人の浮気写真を投げつけてやった。

 地面に落ちた写真を手に取った瞳ちゃんは、「え? 何これ……」と一言漏らして顔を真っ青にしていた。



「これを見てもまだ裏切ってないって言えるの? 私はあんたのことをずっと親友だと思っていた。だけど、あんたはそんなこと思ってなかったんだね。どうだった? 浜崎とのエッチは気持ち良かったでしょ? 私も大好きだった。あいつとエッチするの大好きだったよ。だって上手だし、私のにピッタリと収まってたの。だけど、あんたが奪った。あんたたちは裏切った」


「ち、違う……。してない、そんなことしてない」



 この後に及んでも元親友は言い訳をしようとしていた。



「巫山戯るな! お前なんてもう親友でもなんでもない! これから私の視界に入るな! 一生後悔しやがれ!」



 私はそう言い捨てると、その場から立ち去った。

 後ろの方でドサッと崩れ落ちる音と、嗚咽が聞こえてきたがザマァみろとしか思わなかった。

 放課後になると私は今日もミチルの家でエッチをした。

 復讐をしたからかなんだかとてもスッキリとして、いつもより気持ちが昂っていた。

 エッチが終わってミチルにさっきのことを話していると「なんかムカつくな。自分がしたことを棚に上げてさ」と言ってきた。


 確かにその通りかもしれない。

 あいつらの裏切り行為を断罪してやったけど、別にあいつらへのダメージは最低限だったかも知れない。

 どうせ今も2人で一緒にいるんだろ?

 そう考えるとまた苛々としてきてしまった。



「あいつらが浮気してたことをクラス中にバラしてやらね?」



 ミチルは幼馴染の琢磨くんと美咲ちゃんに、あの2人が浮気をしていたことを伝えるという。

 私は写真をグループLIMEに拡散しちゃうのが早いんじゃないかと聞いてみると、そんなことをしてしまったら名誉毀損とかで訴えられちゃう可能性もあるとのことだった。

 ミチルって結構考えてるんだなって私は感心してしまう。


 だけど、言葉だけだと信用されないかも知れないから、琢磨くんと美咲ちゃんには直接会って写真を見せるらしい。

 そのときに、私たちが付き合い始めたことも言うことになった。

 じゃあ早速話しちゃおうと言うことで、ミチルくんと私は2人を近所の公園に呼び出して最初から説明をした。


 2人とも裏切り者にとても怒ってくれて、美咲ちゃんは私のことを抱き締めて「辛かったね」とたくさん泣いてくれた。

 その気持ちが嬉しくて「ありがとう」と言いながら美咲ちゃんのことを私も抱き締めて泣いた。

 琢磨くんは「俺に任せといてくれ。あいつらに地獄を見せてやる」と言うと、LIMEを開いて友達に裏切り者が浮気してたんだってよとメッセージを何人かに送った。


 するとその情報は一気に拡散されたのか、クラスメイトの何人からかLIMEが来る。

 その内容はいずれも『大丈夫?』『あいつら許せねぇな』など私に対する心配と、裏切り者に対する怒りに満ちていた。

 多分あの2人は虐められることになるだろう。

 そんなに表立った感じにはならないかも知れないけど、無視くらいは普通にされるのではないだろうか。

 私はそうなることを知りながら、ミチルの意見に賛成したのだ。

 仕方ない。

 これも全て私を裏切ったあの2人が悪いのだから。




 ―




 私は翌日登校すると、裏切り者2人の机に『浮気者』『ビッチ』『死ね』などの悪戯書きがされているのを見た。

 そして、黒板にはあの2人の名前と『浮気してたクズです』という文字がデカデカと書かれている。

 まさか昨日の今日でこんなことをするとは思わなかった。

 少しだけ罪悪感が出てきてしまう。

 ひょっとしたら、あの2人はもう学校に来れなくなるかも知れない。


 だけど、私は何もせずに自分の席に座ると、ミチルと美咲ちゃん、そして琢磨くんが席に来てくれたのでお話をした。

 それから少しすると裏切り者2人が一緒に登校してきた。

 その姿を見て私はさっきまでの罪悪感は吹き飛んで、苛立ちが勝ってしまう。


 2人は黒板と自分の席に書かれた悪戯書きを見て顔を真っ青にしていた。

 元親友のクソ女は黒板を消しに行き、元カレのクソ男はバケツと雑巾で机の悪戯書きを消そうとしていた。

 必死な姿が滑稽で面白かったけど、クソ男が自分の机じゃなくてクソ女の机を優先して消そうとしていたのには苛々してしまう。


 結局SHRが始まるまでに全てを消すことは出来なかった。

 先生は何かリアクションするかなって思ったんだけど、2人の机を見てもスルーしていた。

 その態度を疑問に思ったけど、一学期を振り返ってみるとこの先生は面倒ごとが嫌いそうなタイプだったなって思い出した。

 だとしたらこの対応も納得なのかも知れない。

 多分この先生はイジメとか見て見ぬ振りをするタイプの人なのだろう。

 はっきり言ってクズだ。


 だけど、そのクズのお陰で問題が何も表面化しないことに安心した私は、もうあの2人に罪悪感を感じることはなかった。

 私自身はイジメに加担することはないけど、あの2人が苦しむのを見てるのは心地良かった。

 真実なのか確かめたいと言って来た人には、データは渡さないけど直接写真を見せてあげた。

 するとそれを見た全員が納得して、「あいつら本当にクズだな」と言ってから私のことを励ますのだった。


 あの2人はドンドンと孤立していった。

 最初こそは被害者ぶって2人で肩を寄せ合う感じでいたけど、それを見たクラスメイトからもっと激しく虐められてしまうので、それすらもしなくなりついにはずっと一人で机に座っているままになった。


 私はそんな2人を尻目に、最高の学生生活を送っている。

 私のことを裏切らない彼氏と、新しく出来た信頼できるお友達。

 この人たちがいたら私の学校生活は楽しくなるだろうと思った。


 そして、あいつらの虐めが始まってから一週間くらい経ったときに、私はミチルを初めて自分の家に招待した。

 私はまだ家族にあいつと別れて、ミチルと付き合ったことを言ってなかったので驚かれるかも知れない。

 だけど、別にそんなことはどうでも良い。

 ミチルに私の家に来てもらいたかったのだ。

 そして、あの裏切り者みたいに家族の一員みたいになって、これから一緒に家族ぐるみで仲良くなりたいって思ってる。


 私がミチルを家に連れて行くと、案の定お母さんも睦月も驚いた顔をしていた。

 ミチルくんを私の部屋に通してから、お茶を用意しようとキッチンへ行くと、お母さんと睦月が「どうしたの? あの子は誰なの?」と質問をしてきた。



「ミチルは私の新しい彼氏だよ」



 私はそう言うと、2人はさっきよりも驚いた表情を浮かべる。

 お母さんが「ねぇ、鼓太郎くんはどうしたの?」と聞いてきたので「あいつ私を裏切って瞳ちゃんと浮気してたんだよ。だから別れてやったの」と言うと、お母さんは複雑そうな表情を浮かべて「そ、そう。辛かったわね」と慰めてくれた。

 睦月の方を見ると嗚咽を漏らして泣いていた。

 まぁ、あのクズ男に懐いてたし急にこんなこと言われたらショックだよね。

 だけど、私は別にフォローとかせずに、お茶を準備したらミチルの待つ私の部屋にさっさと戻った。

 そして、私のベッドでミチルとたくさん愛し合う。

 あのクソ男と寝てたベッドをミチルに上書きしてもらうためだ。


 やっと。

 これでやっとあのクズ男の匂いがなくなったと思ったら、私はとても幸せな気持ちになったのだった。




 ―




 二学期が始まって約二ヶ月が経過した。

 私とミチルは相変わらずエッチをたくさんしてる。

 この間は学校の、しかも私を裏切った男の机の上でしてしまった。

 場所もそうだし、あいつのことを罵倒しながらするエッチは刺激的で私のことを最高の快楽へ導いてくれたのだ。


 2人への虐めはまだ続いているようで、たまに黒板に『スクープ! 浮気したクズ2人が昨日ラブホから出てきたぞ!』みたいな本当か嘘か分からないことが書かれてたりしている。

 私はハッキリ言ってもうどうでも良かった。

 どちらかというと、早く不登校になって私の視界に入らないといいなって思うくらい。

 机には相変わらず落書きもされているし、こんな状況で良く学校に来れるよなって逆に感心してしまうくらいだ。



「今日って月に一回の自習時間がある日だよな? ダルいなぁ」



 お昼をミチルたちと食べていると、琢磨くんが急にそんなことを口にした。

 そう。うちの学校では月に一回授業が終わった後に自習時間が組み込まれていた。

 この時間は自習になっているが、基本的に先生が事前に配った問題をひたすら解くという感じになっている。

 言ってしまえば、毎月一回はテストがあるみたいな感じだ。


 私もこの自習時間が嫌いだった。

 だって、大好きなミチルと一緒にいる時間が減っちゃうんだもん。

 琢磨くんが余計なことを言うから、ちょっとテンションが下がってしまったよ。


 私はその後もテンションが上がらずに、午後はほとんどボーッとしていたら、忌まわしい自習時間がやってきた。

 先生は最初にプリントを配ると、さっさと教室から出ていってしまった。

 相変わらずやる気がない担任だった。


 プリントを手に取って面倒な作業に取り組もうとすると、何やら教室がザワザワとしている。

 何かなと思い顔を上げると、私のことを裏切った2人が教壇の前に立っている。


 私はあの2人のことを驚きながら見ていると、クソ男が「これから俺たちが浮気をしていないことを証明する」と言い出した。

 その言葉に私は呆然としてしまう。

 そして、ミチルの方を見ると少し焦ったような表情を浮かべていた。


 え?

 何?

 一体何が始まるの?


 私は意味の分からない行動を取る2人から目を離すことが出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る