第77話 めでたし
「よしよし、うまくいったかも、住めそうね」
ルイは今しがた完成した小さな家の中を確認する。
床は板張りにしよう、フローリングだ。あそこの森から木を伐って来てもいいかな…
「ルイ…君こんな事も出来るのかい?」
「え?」
クラルテは唖然としていた。
「え、いやだ。自分の分は自分でやってよ?」
さすがに二十万人の住居など生成出来ない。
「さすがに、そんな事は思ってはいないが…」
クラルテは完成度に驚愕した。
「これは誰でも出来るのかい?」
「無属性なら出来んじゃない?」
ルイの何気ない言葉にクラルテは改めてルイの規格外に驚きを隠せない。
「まあ、簡単に出来ると思われたら困るから言うけど、頭の中でレンガ作りからしているのよ?そして、家の形をイメージして大きさを整えてるの」
「分かったよ。誰にも出来ないのだね」
土の属性を持っている人たちですら思いもよらないやり方でレンガを作ったルイにクラルテは呆れた。
ポコポコと自然とレンガが積み上がったように見えるが、地面からレンガに合う土を移動させ水分と混ぜ形を作り、水を抜き今度は焼成に持っていき冷まして形を整えるという工程を地面から出て来る一瞬の内に仕上げているのだ。口では説明は出来ない。
「ルイ、そのレンガの作り方だけでも教えてくれないか?」
「クラルテにはムリじゃない?」
クラルテは風の属性だった。
「僕にじゃないよ。土属性の人にさ」
ルイはレンガを作る工程をイメージして、作るのだと説明した。
「それだけ?」
「…そうよ」
「まあ…明日にでも相談させてくれ」
そう言うとクラルテは戻って行った。
無属性であるルイは勝手に属性が混ざって色んな事がイメージと魔力で押し通してしまうが、ひとつの属性ではまずムリなのと、無属性の人がいても魔力がルイほどないと不可能である事は明日の朝に証明される。
ルイはその夜、木箱に毛布を敷いて、レンガの家で寝た。一応防犯のため、窓には羽目殺しのガラス入れ、吹き抜けのようにして屋根の三角の部分には大きな窓を作った。そこからはキレイな星空が見えた。季節は春だった。
『もうあの医者の所には戻らないの?』
黒猫のカミノアがルイの耳元で囁く。
「あ、本当だ。一度戻ろうかな。心配するよね。アネモネの所にも行きたいな」
まあ、そんなに心配などしてないと思うけど取り合えず手紙を出して、落ち着いたら訪ねよう。
ルイは追われる生活ではなくなった。元々そんなに危機感があったわけではないが、この荒れ地を豊かな実りのある土地にして行こうと目標が出来た。
サウーザの職人たちの助けもあり、住宅の建設はどんどん進んだ。神獣たちの力もあり、実りのある豊かな街に仕上がっていった。シオンが言った猶予五年はまったく必要なかった。
◇
程なくしてルイは嫌がったがクラルテと一緒にこの都市の代表者になった。
「この街を作ったのはルイなのだから仕方がないと諦めてくれ。本来、僕の出番じゃないのに君がひとりでは嫌だというから僕も協力をしている」
という、あんたは元王族ではないか…と言いたい気持ちはあったが「じゃあ君ひとりで頑張りたまえ」とか言うのでルイも代表者になってしまった。
本当なら街が落ち着けばフラフラとどこか旅にでも行こうかと思っていたルイは計画が狂ってしまった。代表者になったら逃げ出せそうにない。でもまあその内、落ち着いたらこっそりと逃げちゃおとルイが思っていると都市の名を『ルイ・クラルテ』と命名されてしまった。
「げっなんで!絶対やだ!!」
「なんで?もうサウーザに書類を提出しちゃったよ。変更はもうムリだよ」
ニコニコと、してやったりの顔をしているクラルテだった。
そして、ルイは都市を納める者としてサウーザの伯爵にクラルテと共に任命されてしまった。
ルイボス・アベンジャーズ
クラルテ・アスター
「ルイ、アベンジャーズってどういう意味だい?」
クラルテは歴代の貴族の名にない不思議な言葉の意味をルイに聞いた。
「いえ、別に深い意味はないです」
ちょっと遊んだ事は否めない。神獣たちがアベンジャーズぽいなっと思っていたのだ。
「いいね、アベンジャーズ」
クラルテはアベンジャーズを気に入ったようだ。
「やあ、ルイ殿。久しぶりだね」
サウーザの陛下からの任命を受け、伯爵になったルイとクラルテのパーティーがサウーザ城の新しくなったフロアで開催されていた。
「シオン様、カイン様。お久しぶりです」
シオンとカインは相変わらず兄弟でくっついてパーティーに訪れていた。一緒に参加してくれるパートナーはまだいないようだ。
「ああ、『ルイ・クラルテ』の勢いは止まらないね。ノーズレスクの特産品だった水の粉もチツノコも『ルイ・クラルテ』には山のようにあるのだから」
水の粉は小瓶に入れ、ツチノコも小さく粉々にして麻袋に肥料として売り出していた。もちろん、飛ぶように売れた。
「本当だね。実りも果物や野菜に新鮮な魚、そう魚!魚があんなに新鮮で美味しいものだったなんて思わなかったよ!」
「ああ、ルイのアイディアは本当にすごいね」
ルイは刺身を食べたかったので新鮮な魚を時短で運搬する方法を考えた。あの湖に沈めた小瓶の方法をちょっと変更して再利用したのだ。クラルテにも了解を得ている。
「それに発明品は各国を唸らせているね。やはり君は只者ではなかったね」
「今ではノーズレスクよりすごい事になっている。大注目株だよ!兄上、税収を五年後にしたのはまずかったんじゃないの?」
「そうだな。二年でも余るかな?」
シオンもカインも『ルイ・クラルテ』の快進撃に興奮気味だ。
「まっそれは冗談として付与の件、顔見知りとして順番を早くお願いするよ」
「サウーザには以前お世話になった事からお礼ははずみましたわ。今回は申込み順になります。シオン様は百五番目です」
ルイは街が落ち着いたので付与師の仕事を再開した。今度はルイの報酬もちゃんと支払われる。
「ははは、手厳しいなぁ、向こうでワインでもどうだい?これからの事とか話し合いたいな」
「これからの事ですか?」
「『ルイ・クラルテ』の今後の事とか僕たちの事とか…ね」
「それがいいね。ルイが好きそうな焼き菓子もあるよ」
「僕たち?」
「ルイ、僕の事、紹介してくれない?」
クラルテは話をするルイたちに割り込んだ。
「ああ、ごめんなさい。シオン様、カイン様、こちら一緒に領土の経営をしているクラ…」
「クラルテ・アスターです。シオン王子にカイン王子、お初にお目にかかります。もう少し落ち着きましたら、僕たちは婚約を発表したいと思っています」
「「「え?」」」
「その時にでもまた、お話をしましょう」
クラルテはニコニコと笑いながら、ぐいっとルイの肩を引き寄せた。シオンとカインはポカンとしていた。
「こ、こ、婚約って…」
「君はとてもぼんやりしている」
「は?」
「それにルイには前々から結婚の意思は伝えてあっただろう?」
「いや、でも、それは…」
ルイは顔を真っ赤にしてあたふたしている。
「ルイがそんな態度だから、僕は勘違いをする」
クラルテはルイを抱きしめるとキスした。
「僕と結婚しよう、いいよね?」
「は、はい」
『僕は気に入らない』
水滴としてルイにくっ付いて来ていたカミノアが物言いをする。
クラルテはルイの肩を寄せた。
「カミノア様はルイを女性として幸せには出来ませんよ。でも僕にはそれが可能なのです」
『う~』
ルイは元第四王子のクラルテと結婚した。ルイボス・アベンジャーズ・アスターとなった。
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