第76話 長からの御挨拶
「今、どういう感じで街を建設しようかと兄さんと話を詰めているんだ」
「兄さん?」
「ロロイカだよ」
そっか、ロザージュも言っていた。こっちに来たいといって奥さんと離縁したんだっけ。
元タールの邸を軸に少しの住宅がある。それを中心に街を建設しようとしているらしい。元かの国の住民たちも職人はたくさんいる。サウーザからも協力は惜しまないと言われているので工事は着々と進んでいた。
「ルイはこっちで暮らすの?」
「そのつもり、私がこんな荒れ地に連れてきてしまった責任もあるし、クラルテと同じようにみんなの暮らしが元に戻るまで私もなにかするわ。まあ私はなにも出来ないけど…取り合えずロザージュたちと一緒に農作業でもしようかな」
「何言っているの?ルイには豊かな想像力があるだろう?少し落ち着いたらまた発明で儲けないか?もちろんこの街の為にね」
「そうね」
確かに売れるものは全部売った方がこの街にもいいかもしれない。やはり街造りをするならお金がないと進まないだろう。
「私はモナルダたちの近くに家を作るわ、そちらから通うわ」
「そうか…そうだな。僕も神獣様たちに挨拶をしたいのだが、紹介してくれないだろうか」
「紹介?」
紹介とは何だろう?名前を言い合えばいいのだろうか?勝手に話掛けちゃあいけないと思っているのかな?
ルイたちはクラルテと一緒に来た道を戻った。ロザージュも来ればと言ったけれど今度にすると農作業に戻って行った。
「ロザージュは優秀だから落ち着いたら、運営を手伝って貰った方がいいかもしれないわね」
と、言う言葉にクラルテの返事はなかった。ルイがそっと振り向くと、なにやら緊張している。ルイはぷっと吹き出してしまった。
「笑わないでくれ、君がそもそもおかしいのだ。神獣様に会っても平然としているのだから」
「クラルテは初めてだった?」
「ああ、噂は耳にはしていたよ。水龍様が目覚めた時の事やみんながそのお姿を拝見した時など、でも僕には事後報告だったから」
「ムーンやサンは誰もあった事ないと思うよ」
丘の上に行く途中に湖が見える。
「ああ、ここの湖に水龍のカミノアの本体がいるわ」
「本体?」
「ええ、中身はここに」
と、ルイはひょいと黒猫を持ち上げた。
「ええ!この猫が!いや、猫様が…」
クラルテはさっと膝間づいて頭を下げた。
「ご無礼を」
『いや、別に。ルイと一緒にいたくてこの姿なだけだから』
「あ、ちなみにこの子は雲のラグ爺よ。気が付いている?」
ルイはカバンの中で鼻をピクピクとさせている灰色のウサギを見せた。ルイがウサギを連れ去ったと言われているだろうからラグ爺の事は知っているかなと思って聞いてみたのだが、クラルテは「え!?」っと言ったまま固まった。
『頭が高いのぉ』
「はは!」
クラルテは片膝だったのが、ひれ伏してしまった。
「ちょっと、ラグ爺!」
『ほっほっほっ』
楽しそうなラグ爺である。
それから、丘へ向かいモナルダと対面した。
『あら、またいい男ね』
「クラルテよ。これからクラルテが中心となってこの街を盛り上げていくからみんなもお願いね」
『ま、頑張んなさい』
「はい、ありがとうございます」
『あら、素直な子』
ちょっと後ろにはビアンカの杯とムーンがこちらを見ていた。
「白蛇がムーンで、炎の聖杯から顔を出しているのがビアンカよ。サンは大きいから土の中にいると思うわ」
クラルテは息を整えると両膝を地面についた。
「私は元ピティナスピリツァ王国の第四王子クラルテと申します。神獣の皆さま、今まで我が王族の者が失礼した。私も王国に対して見て見ぬふりを決め込んでいました。大変申し訳なく思っております。今後我が一族は、民と協力し尽力して参ります。神獣様たちに至っては恐れながらお力をお貸し頂きたいと願っております」
と、クラルテは頭を下げた。
『苦しゅうないゾイ』
「はは!」
ラグ爺は一番の年長さんなのだろうか。
『バカね』
『固い男だな…』
クラルテは、丘の下の置いてあった民からのお供え物や自身が持ってきた果物、野菜、菓子などを献上した。
「では、ルイ。長居はご迷惑であそうから今日は失礼するよ。ルイは今日はどうするの?野営?」
「ここに家を建てようかな」
と、言うと
ゴゴゴと地鳴りが聞こえ出し、土の中からレンガがポコポコと生成し、積み上がっていった。窓の部分にはガラスを生成し、あっという間に小さな一軒家が完成した。
「ふう、しばらくここで寝起きするわ」
「そ、そう…」
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