第64話 そして誰もいなくなった
そして二ヶ月もすると平民はほぼ移動が完了した。移動者を毎回増やしながら急いだ。ルイは最終的に魔力を目いっぱい使う事になった。だがルイは一時間もすれば魔力がすべて戻ってしまうという得意体質だ。それが今役立った。
その希望した半分の住民を荒れ地に移動させた。荒れ地の領地は「タールタクト」である。あのタールが領主になっている。あんなのが領主ではいい領地にはなれない。
やられた。とルイが思っていると数少ないタールタクトの住民がシオンから文書をルイに手渡した。文書には王族の印が押してある。
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タールタクトは借り名だ。タール親子にその地を任せたが母親はどこかの裕福な商人と駆け落ちしている。
父とは領地に送られた時点で離縁している。父もやっと目が覚めてくれたようだ。タールも貧乏領地に嫌気が差し、隣の領地の貴族の邸に「俺は王子だ」と居座り好き勝手をしていたらしく、そこの兵士に捕まり、王都に強制送還の途中の森のどこかに捨ててもらった。あんな奴の為に税を使うのはサウーザの住民に申し訳ない。
よって、領地は好きなように名乗ってよい、好きなように開拓してよい、この五年は税の取り立てはしない。
衣食住は出来る限りの事はする。そちらに物資と職人を送る手配をしている。
君がどんな改革をしてくれるのかを楽しみにしている。
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とのことが書かれてあった。
私に改革を期待されても…
そしてタールタクトの住民たちとかの国の住民たちの代表者たちを合わせこれから頑張っていい領地にしょうと話し合った。
初めて訪れたタールタクトの領土ではあったが荒れ地ではあるものの、多くの自然が残っている美しい領地だった。キレイな湖や川もあるし山もあり海もある。タールタクトの住民は海の幸を近くの領地に売りに行って細々と暮らしているのだそうだ。かの国の住民は海など見た事もないので海の方は荒らさない。
最初はサウーザから衣食住の提供もある。その間に整備をしてもらうようお願いをした。
この移動が終わったらまた来ると約束してルイはパルドブロムに戻った。
平民がある程度落ち着いたので今度は貴族だ。かの国から出れば貴族ではなくなる。多くの貴族はそれを不満に思った。では王族側に付いていた方がいいのでないかと言う考えの者もいたがすでに平民はほぼ全員移動している。税も取れないし仕事を任せる者もいなくなった。結局納得せざるを得ないとしてタールタクト(仮)に移動する事にしたようだ。王族にも伝手はなかったのだろう。
しかし王族とずぶずぶの上級貴族にはまだ話もしていないとの事だ。城の近辺に邸を構えている貴族には王族の身内も多いのだ。説得するのは難しいだろうとルイは思っていた。しかし、しばらくして下級、中級貴族が移動してくる中、多くの王族の身内や上級貴族が移動してきた。その中心には第四王子がいた。なんと第四王子が説得して上級貴族を引き連れてきたのだった。
どういう経緯で第四王子に話がなされたかは、定かではないが急だった事は明らかだ。それはロザージュからなにも話がなかったからだ。
「やあ、ルイになったのだっけ?久しぶりだね」
第四王子は銀色のストレートに瞳は優しい緑色だ。
「どうも、お久しぶりです。はやく渡ってください。閊えています」
第四王子は発明王で稼ぎ頭だ。その第四王子だから貴族はみんなついて来たようだ。
「そんな顔しないでよ。君の発明を奪って悪かった。きちんと詫びさせてほしい」
「進んでください」
第四王子は「また後で」といい前に進んだ。
ルイは別に第四王子を怒ってはいない。第四王子はルイの発明を少し見ただけでそれを進化させて売り出しているのだ。やはり天才なのだ。そして、第一王子がルイを入れようとしたあの小瓶だって本当は作ろうと思うば作れたはずである。
ルイは自分がバカで作ってしまったと後で後悔をしていたが、第四王子はこの小瓶を世に出してはまずいと瞬時に思ったようで作れないと第一王子に伝えたようだ。バカな自分と違って分別はあるのだ。
そしてルイの両親だが父親は愛人の家で好き勝手したあげく浮気をして追い出され、違う女の所に行ったようだ。元愛人は商売が上手く行っていて少し裕福な下級貴族だった。その元愛人がルイに話をしてくれた。出て行った後の事は分からないがたぶん、浮気相手は平民だったはずだというのだ。平民の中に紛れてこの虹の橋を渡ったのだろうという事だった。
ルイには一言もなかった。最後まで最低な父親だ。母親は第一王子の教育係をまだ勤めているようで最後になるようだとロザージュが言っていた。その時に弟も一緒に来る様だ。弟は兎も角母はどうでもいい。
貴族のほとんどはタールタクト(仮)に行ってもらう。ボロだが第四王子にはタールが住んでいた邸を提供する。詫びなら運営して貰う
そしてロザージュの父と母が渡って来た。
「ああ、ビ、、ルイだったわね。辛かったわね」
と、ロザージュの母親から抱き締められた。自分の父は通り過ぎただけだったのに、ルイは泣きそうになるのを堪え、ロザージュの両親を懐かしんだ。
「おば様、無事でよかったわ、いい暮らしは出来ないけどしばらく辛抱してね。皆が
安心して暮らせるように頑張るから」
「ルイ、私たちの方こそ頑張るわ。ありがとう」
ロザージュと兄ロザリオは最後の日までいるらしい。最後の日とは第一王子がかの国に返還される日だ。
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