第58話 久しぶりの登場

 真っ白な鏡のような大理石の床を早歩きで向かうサウーザ王国の第二王子カインの姿があった。

「兄上、いいかな?」

「なんだ」

「ノーズレクスのハートから文書が届いているよ」

「ハートから?この間文書を送ったばかりだろう、早くないか?」

「内容はローズの事ではないよ」

 シオンはカインから文書を受け取り中身を確認する。


「そうか、ルイは無事だったようだな。今はノーズレクスにいるのか」

「うん、ハートのもとにいるようだね、宝石を一度見たいと言っているけど…」

「ああ、あれは外交に使おうと思っていたんだが、修繕や第一王子の事で後回しにしていたから先手を打たれたな。まあいい、あれはルイの物だからな。あれを持っていたらこちらが泥棒国家になる」

 シオンは少し残念そうに文書をテーブルに置いた。


「誰にいかせる?」

「私が行くよ、ルイ殿にもどうやって逃げたのかも聞きたいからな」

「でもまだ第一王子が片付いてないよ」

 第一王子はまだ城の最上階に監禁されている。

 

「かの国の交渉に後三ヶ月は持たせる。城の修繕が終わるまで返せる訳ないだろう。それに陛下も弟王子たちもいるんだ十日ほど私がいなくても問題ない。カインも同行してくれ。私の代わりはフリルに頼むよ」


「僕はいいけど」

「ついでにローズも連れて行こう。ハートに土産でも渡して機嫌を直してもらえ」

「…わかった」


「ん、どうした?カイン」

「ハートはたぶん、兄上の事が好きだったのだと思うよ。だから兄上に婚姻の件を言われて辛かったと思う。兄上はハートをなんだか道具みたいに扱っているよ」

「…悪かった。ハートとカインは同じ歳の同じ学院だったな」


 ◇


 フィロデンと交渉をしてから二日後、フィロデンはキャラハン公爵と話を通してくれたようだ。そしてルイはまたしても城に招かれる事になって、キャラハン公爵を交えてまた最初から説明をしなければならなかった。

 キャラハン公爵はかの国と繋がっている。それもフィロデンは分かっているので早急に話し合いの場を設けてくれたのだろう。


「そうか、あの国はそんな事で成り立っている国だったのか…ルイ殿すまない。私を含め、私の親族たちはたぶんなにも知らぬまま手を貸していたようだ」

 キャラハン公爵はこめかみに指を沿える


「水の粉はすでに最後だと取引を数ヶ月前に終了している。このまま最後でも構わないよ。陛下には私から話を通す。ここの貴族たちにもね。礼を言うよ、ルイ殿。付与師の件では戦争になりかけていた。そうなればかの国から支援を仰ごうとしていた矢先、移動してしまって困っていた所だったのだ。サウーザが大人しく渡してくれるかは分からないが、真相が分かっただけでもいいよ。ありがとう」

 キャラハン公爵はルイの両手を取りブンブンと上下に振った。


「い、いえ、元々は私が持ち出してしまったので…」

 ルイが申し訳ないく思っていると

「でもルイ殿はあの素晴らしい付与技術を無料でさせられていたんだろう?君が怒るのも無理はない。君の名前は伏せておくよ。だから付与師の仕事を復活したらまたお願いするよ。個人的にね」

 キャラハン公爵はチャーミングにウィンクをした。


 そして今頃はハートが出してくれた文書がサウーザ側に伝わっている頃だろう。電話もメールも出来ないのがもどかしい。


 そして、その数日後にはサウーザからシオンとカインがノーズレクスに直接、ルイから預かている宝石を届けると言う内容の文書が届いた。ついでにローズも連れて行くそうだ。ハートは眉を顰める。そしてそのまた数日後、シオンとカインとローズがノーズレクスの王都にやって来た。



 そしてシオンたちはすでに王やキャラハン公爵との謁見を終わらせるとルイに面会を求めた。ルイはまたしても城に参上する。三日一回のペースで城に来ている。


「やぁルイ殿、無事だったようだね」

「シオン王子、カイン王子、その節はお世話になったのに申し訳ありません。連絡もしないで」

「まあ、かの国の王子が追って来るだろうから言えなかったのだろうと思うけど、水龍は君の手下だって?キャラハン公爵から聞いたよ。逃げる為とは言えあのやり方はひどくないかい?城は半壊だよ?」


「はい、すいません。後で新聞を読みました。本当にごめんなさい」

 ルイは何度も頭を下げた。

「まえ…」

「兄上もういいだろう。ネチネチうるさいよ」

 カインがシオンの言葉を遮った。

「ネチ…」


「今かの国の王子はサウーザの牢屋にいるよ。だからしばらくは大丈夫だと思う」

 カインはルイを安心させる為に第一王子は拘束されている事を告げた。


「ああ、王子の救出されるまではそちらに目がいっているだろう」

「そうでしたか、だからかの国はこっちに戻って来てないのですね」

 ルイはいつまでもサウーザの砂漠付近にいる意味が理解できた。


「ノーズレスクに宝石も渡したよ。今は目的の宝石か鑑定をしているようだ。その時にキャラハン公爵とフィロデン殿から話は聞いた。二十万人の受け入れをお願いしているのだろう?」

「そうです。あ、宝石の件はありがとうございました。受け入れの件はご無理な事をお願いしているのは承知していますが…」


「サウーザでも荒れ地なら受け入れる事は可能だよ。家や道具は提供も出来るが一からになるから大変なのは大変になる」

「それでも有難いです。かの国の住民が納得してくれるのかは分かりませんが…」

「で、どうするの?」

 カインが興味深そうに聞いてきた。


「まずはかの国の住民の説得をしないと決めれません。納得してもらったら見つからないように住民を移して…あとは私を諦めて貰う感じです」


「ああ、話は聞いたよ。今時生贄なんて!」

と、シオンは憤りを隠さなかった。



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