第55話 味方が必要です
今日はハートとは地下の喫茶店で待ち合わせをしている。いずれ公爵となる人物の妻がホイホイとしかもお付きはふたりだけで庶民の喫茶店に来るなんていいのだろうか。しかもお付きは喫茶店の前で待機させている。
「息抜きは必要なの。夫も週一くらいならいいよと言ってくれてるわ」
「すでに週一以上に会ってるじゃない」
「まぁ、そうだけど、ルイはいつまでノーズレクスにいるの?」
「決めてないわ。水龍の事も調べたいし…」
「水龍なら今サウーザの王都にいるんじゃないの?」
「まあ、行方を捜したいのではなく生態を調べたいの」
「ふーん、ルイって変わっているわね」
「…この国の国王様ってどんな感じの人?不思議な事とか好きそう?」
「んーどうかな。こんな事いうと不敬だけど…なんにもない人よ。ただいるだけみたいな感じ。もちろん、公務はきちんとなさっているわ。でもそれだけ、キャラハン公爵が実質国を支えているわ。はっきり言ってキャラハン公爵がクーデターを考えればすぐに王位は交代すると思うけど、まぁキャラハン公爵も夫もそんな事には興味がないみたい。王位も大変だしね。国民の矢面にされるし今は行方不明になった付与師の事で王様が窮地に立たされているらしいの。でもその橋渡しはキャラハン公爵でしょう。だからその事で忙しいのよね。だからあっちこっち行っているみたい」
…ああ、付与の件…サウーザに置いて来た…サウーザは宝石を返してくれるかな
「忙しいのに会ってくれたのね。悪かったな」
「それは違うわ、本当にムリなら断ってくるから。いい気晴らしになったのよ」
「それにしてもハートの旦那様のフィロデン様は本当に素敵な方だったわね。今は公爵様のお手伝いをしているの?」
「ありがとう、ルイ。ええ、夫はキャラハン公爵と一緒に仕事をしているわ。表向きはキャラハン公爵が行って裏の事は夫が頑張っているみたい。私はよくわからないから悔しいわ、今までローズの世話をしていたから」
「これからたくさんお手伝いできるわね」
「ええ、そのつもり」
「もう一度、会えないかな?」
「え?夫と?ど、どどうして?まさか、ルイ…夫に一目惚れしたとか?」
「違うわ、…ビジネスの話よ」
「ビ、ビジネス?」
「そう、これからハートも仕事を手伝うのでしょ?」
「いえ、私は仕事の手伝いではなくて夫の支えに…そうね、仕事も手伝いたいわ」
ルイはにっこりと笑う。
「キャラハン公爵が忙しいならフィロデン様に最初に持ち掛けた方がいいわよね」
「そうね、夫に話をしてみるわ」
「ありがとう、ハート」
「どんなビジネスが障りでも聞かせて貰える?」
「そうね、まず…付与師の問題を解決するわ」
「…なぜ、ルイが?」
ハートは急に厳しい目になった。
「それはフィロデン様と一緒の時に話をするわ」
色々と賭けではあるけどその件で大変なら話を持ち掛けやすくなるかもしれない。
四日後に表向きはお茶会がまた城で開催された。ルイとハートとフィロデン様のみ、使用人はすべて下がらせた。再会した時はにこやかだったフィロデンも使用人をすべて下がらせた後は厳しい顔つきになった。近くに騎士を配備しているかもしれない。
ルイはノアとモナ、ラグをもちろん連れて来ていた。いざとなったらサウーザの時みたいに逃げちゃう。
「フィロデン様、お忙しいのに時間を作って頂いてありがとうございます」
「…前置きはいらないよ。付与師の件を聞こうか」
ハートは不安そうにルイと夫に交互に見ている。
ここが勝負だ、フィロデン様を味方に付けなくてはならない。厳しい瞳に心が折れそうになるルイはカミノアを撫でて自分を落ち着かせる。
「わかりました。単刀直入に言わせて頂きます。逃げた付与師が持っていると思われる宝石は今はサウーザのシオン王子が持っています」
「…どういう事だね」
意味が分からないとフィロデンはルイを睨む
「今から説明します。二ヶ月ほど前の事になるかと思います。シオン王子から未だに連絡がないのはもしかしたら水龍の修繕の為、多忙を極めているからかもしれません。後、外交でなにか使おうとしているのかもしれません。それは分かりませんが…」
「…」
「なぜ、サウーザにあるかと言うとたぶんその捜している付与師は私だからだと思うからです」
フィロデンの目が光る、騎士を呼ばれては貯まらない。
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