第50話 なにか大きな荷を自分で背負いました

「え?キャラハン公爵のご子息の妻?ハート様の事?」

 ルイは午後にはロザージュと会っている。

「ロザージュは知っているの?」

「そりゃ知っているわよ、有名よ。お奇麗で知的なローズ様の世話係りとしてね」


「そのローズ様って何者?」

「ローズ様はサウーザ王国の第三夫人の長女のローズキャロライナ姫よ。サウーザの唯一の姫君よ。だからなのかもの凄く我が儘なの」

 あの王子たちの妹だった。

「確かに、我が儘な姫様だったわ。よく言えば天真爛漫って言うのかしら」

「そうかもね、いとこのハート様はお気の毒だわ。いつも振り回されて。今回の帰郷もローズ様が水龍を見たいからと祖国が大変な時に帰りたいって騒いだって話」

「え?」

「そ、あなたの水龍でしょ?あの後新聞をきちんと読み返したのよ。城を半壊って、どういう事?」

 ロザージュは新聞の見出し部分しか読まないようだ。

「ま、色々とね、うふふ」

 笑って誤魔化す。

「まぁいいけど、なんか聞くのこわいし…」

「ロザージュは巻き込まないわ」

「違うわ、」

 ロザージュはキョロキョロと見渡して小声で話をする。

「生贄の事よ」

 ロザージュはどういう事かは分からないがかの国の生贄の件で水龍が暴れたのかと思ったようだ。あながち間違いではない為、第一王子が追って来た事やラグ爺たちの事をロザージュに聞かせた。


「私は逃げ切るつもりだけど、かの国に囚われている神獣がまだいるらしくて解放して上げたいの」

「私の両親も解放して上げてほしいわ」

「それは自分でやって…」

「そんな…」

 ガーーーンと、言いたげな顔だ。

「嘘よ。なんとか住民も助け出すつもりよ。もう私だけの問題じゃなくなったし、だからロザージュは一旦帰ってご両親と逃げ出す準備をしてほしいの。出来れば他の人たちも説得してくれないかなって」


「ありがとう、ルイ。説得かぁそうよね…両親と兄にも話をして頼んでみるわ」

「ええ」

「でも虹の橋がないから帰れないじゃない?」

『帰れるわよ』

 ブッと紅茶を噴き出してしまうロザージュ

「モナ…」

「虹のオウムは話が出来るのは本当だったのね、どうやって帰るの」

『あなたの魔力は抹消してないわ、家を思い浮かべれば家の中に虹が架かるわ』

「そうなの?あの場所じゃなければってことでは…」

『ないわ』

「誰を抹消してるの」

『王族はみんな抹消したわ』

「じゃあ今日の夜にでも宿で虹を架けてみるわ」

『でも気を付けてね、私は自分の魔力を使わないの、自分の魔力で橋を渡るのよ。だからあまり距離があると死んじゃうからね』

 違う虹の橋になりそうだ。


「わ、わかった。この街からならいいのね」

『今かの国が遠くにいるからサウーザに行った方がいいけど』

「サウーザまで?!あーん、そうなのね。仕方ないわ…」

「送るわよ」

「え?」

 翌日、ルイはロザージュとノーズレスクの門を出た。そしてカミノアが眠っている湖まで戻った。

 カミノアは黒猫をルイに託し、湖に眠っている身体に戻った。そしてスィと水面に顔半分だけ覗かせた。ロザージュは話しに聞いていたとは言え、その大きさに硬直した。そして複雑な感情を抱かずにはいられない。

「ロザージュ、これだけは言っておくわ。水龍のこのカミノアは生贄なんか必要なかったの。ただ寝ていただけなのよ。王家が勝手に生贄を捧げたの。叔母様とお姉様を殺したのは王家だから。そこはわかってほしい。他の人にもそこは丁寧に説明してほしい。カミノアはなにも悪くないの」

 ルイはロザージュの手を取り真剣な眼差しで話をした。


「…そうよね、王家が水の粉がほしいばかりに水龍様を目覚めさせようとしたのよね。うん、水龍様を恨んだりしない。両親にもきちんと話をするわ」

「ロザージュ、カミノアって言うのよ」

「カミノア、よろしくお願いします」

『うん』

 カミノアもちょっと複雑ではあるだろう。


 ふたりは冷えないように着こんでカミノアに乗り込んだ。そこから一気にサウーザに到着した。時間は二時間ほどだ。


「こんなに早く着けるのね」

 ルイとロザージュは目を回している。ロザージュは最初こそきゃいきゃいと楽しんでいたがスピードが速くなるともう話さなくなった。

『もっと早く行けるんだけど』

 ふたりは首を振る。


 サウーザの近辺の砂漠の頭上には、どどーーんと大きな積乱雲がある。しかし以前見た時より少し雲の迫力がなった。

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