第17話 男爵様はものすごく興奮している

「ルイ様は元貴族様でいらっしゃるということでほぼ完璧です。国王様の謁見の際にもなんの不都合もないでしょう」

「ありがとうございます」

「アネモネ様は特に貴族様の前に出ることはないと言われましたが、お仕事を手伝う際にはやはり、貴族様と関わる事になりますから、お言葉遣いだけは気を付けて頂ければ問題ないと言えます」

「そうかい」

「プリムラ様とネメシア様はもう少し勉強が必要になりますね」

「私らは掃除婦だよ?貴族とか関係ないだろう?」

「でも習っておくのもいいものよ」

 この貴族専用行儀見習いに来て頂いているのは、コバルト男爵夫人だ。コバルト男爵はシラー男爵のご友人だそうで、相談した所夫人が勤めて下さることになったのだ。


「こんな機会ないんだから、習っときな。貴族の家に掃除婦としていけば金にもなるだろう」

「別にそんなに稼がなくても、楽に生きれればそれでいいよぉ」

 プリムラは行儀見習いが苦痛のようだ。

「何言ってんだい!ここがなくなったら露頭に迷うことになるんだよ。せっかくルイがあたしらの分まで行儀見習い代を払ってくれているんだから、ちゃんと学びな!」

「へーい」


「では、ルイ様また二日後参りますね」

「ええ、コバルト男爵夫人。ありがとうございました」

「ごきげんよう」

「ごきげんよう、コルドナ男爵夫人」


 二日置きに行儀見習いを頼んでいる。


「はぁ貴族っていうのは肩がこるよぉ」

「プリムラは、そんな肩がこることしてないでしょぉ」


「プリムラ、我慢して付き合わなくてもいいからね。やっぱり向き不向きってあるし」

「むっなんか失礼じゃない!出来ないんじゃなくてしないだけだし!」


「そうね、だからしなくてもいいってことよ」

「むむ、せっかくだから習うよ」

 仲間はずれにはなりたくはないようだ。


 シャルトル辺境伯と謁見後、二ヶ月経った頃にルイは付与をする為にシラー男爵家に訪れた。めずらしくシラー男爵が慌てている。ルイが来たと分かるといつもより早歩きでやって来た。


「ルイ、かの国が攻めて来たよ」

「は?」

「かの国だよ!君の!」

「…いや、え?」


「ここから近い砂漠の上空一万メートルに巨大な積乱雲が発生した。これは城にある望遠鏡というものでしか見ることが出来ないのだが、そこに映し出された巨大な雲だ。そしてここ、小さく映し出されている…これはかの国では?」

 シラー男爵は数枚の写真のようなものをルイに見せた。確かに巨大な雲が砂漠に覆われている。そして、三枚目の写真にはかの国の城の一部だと思われるモノが見えていた。


「これは絵師が描かれたものですか?」

「すごいだろう?これは写真というものだ。実際のものをそのまま紙に移すことが可能になったのだよ。まぁでもこれを撮るのに三時間掛かるがね」

 写真といい、望遠鏡といいルイが発明したモノだが、第四王子に渡りこんな遠い異国のまで浸透している。そのことにびっくりだ。


「それより、これは最近映し出されたものなのだ。私はシャルトル辺境伯にかの国の事を報告している。もちろんすぐにシャルトル辺境伯から国王にも伝わっている。だから国王や王族たちはこれがかの国ではないかと思われているようだ。巨大な雲でよくわからないが、少し…少し城のように見えないかね?ん?昔からある書籍では、かの国は空に浮いてるという事が書かれてあるんだよ。いや、地下だという学者もいるようだが…やはり上空だったのだよ!で、君にこれを見てもらうようにとの事だ。それと今すぐに王都に出発して国王と謁見だ。明日出発するから準備していてくれ」

 シラー男爵はものすごく興奮している。

「…はい」

 早口で言われ最後の明日出発しか聞き取れない。

「で、これはかの国かね?」

「え、わ、わかりません。外から見たことがないので…」


「そうだろうね、一応聞いただけだ。この話を聞いたのも二ヶ月ほど前だったはずだ。タイミングがばっちりだ。迂闊だったか…」

「何がでしょう?」

「君の居所が知れたんじゃないかな」

「え?」

「君はかの国の国名を紙に書いたとはいえ、表に出してしまった。そのことで君はここに滞在しているとバレたのだと思うよ。言葉に出していたらピンポイントで知られていたかもしれないね。紙に書いて正解だったのだろう。ああ、私が国名を聞いたばかりに申し訳ない」


「よくわかりませんが、祖国の名を語った事で居場所が分かるような魔法が掛かていると言う事ですか?」


「学者の話だと、そのようだよ」


 それは…すごい魔法だ…

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