第10話 仲良くなりました

 金髪碧眼に姿を戻し夕方には業者宅に戻る。ちょっとクタクタだ。

「ずいぶん、遅かったじゃないか。ショッピングは楽しかったかい?」

「ええ、ほらこんなに。アネモネに教えてもらったところはリーズナブルで品揃えもよかったわ。ありがとう」

 荷物を宝石収納に入れていたが業者宅の近くで、こっそりと手荷物にしていた。たくさん買ったのだと見せた。

 その日の夕食はルイがお店でたくさんおかずを購入して帰った。みんなで食べようと思ったのだ。

「お近づきにどうぞ、みんなで食べようと思って」

「おお、悪いね。ありがとう」

 アネモネが礼を言う。そこへ仕事から帰って来ていたプリムラがやってきた。

「なにかいい香りがすると思ったら「コバーチュ」のあんかけステーキ肉じゃないか!これめちゃくちゃうまいよな」

「ルイがごちそうしてくれたんだよ。みんなで食べようって」

「うおー、ルイありがとな!」

 ネメシアも返ってきて四人で夕食となった。奮発してあんかけステーキ肉を買ってきてよかった。800gで一万ペントもする。

 早く仲良くなるためにはごちそうするのが近道だ。今日は懐も暖かいしね。


 主食はパンだ。アネモネがスープを作ってくれていたので立派なセットメニューの出来上がりだ。みんなで美味しく食べた。


「こんな楽しくて美味しく食べた夕食はひさしぶりだよ~」

「大げさだわ、プリムラは。ふふふ」

「いつも屋台で買ってきた安いがまずいガルボだからねぇ」

 ガルボとはジャガイモと豆を煮た料理だ。庶民が安くて食べやすい料理だがあまりおいしくない。

「よかった。奮発して」

「すごいよな~四日で六件終わらすほどの実力者だもんな、ルイは」

「ほんとよね~あそこの別荘地にプリムラと言ったことがあるけど、もう二度と行きたくないわ。広すぎるし、管理人はうるさいし…報酬がよくてもごめんだわ」

「確かにねぇ、ルイがいなかったら間に合わなかったよ。ほんと助かった」

「そうなのね、お役に立ててよかったわ」

「ルイはなんだかお嬢だな!おっとりしてるし」

「確かにねぇ、どこの出身なんだい?アルベルスじゃないだろう?」

「そうね、ルイって名前も変わってるわね。あまり聞かないわね。本名はルエリアかルピナスかしら?」

 そんなに変わっている名前なのかな?逆に目立つかもしれない。

「みなさんはアルベルス出身じゃないの?」

「みんなサウーザ出身だよ。もっと田舎の方だけどね」

「そうなのね、私の本名はルイボスって言うの。出身はサウーザじゃないけど。もっと小国よ。親が借金をして売られそうになったから一人で夜逃げしたの」

「衝撃的な過去ね。まぁどこも似たような環境なのね」

 ネメシアはふうとため息を吐く。

「ネメシアも売られてこのアルベルスに来たのさ。取り締まりがあってうまく逃げだせたけどね。そのまま売られるなんてこともけっこう多いんだよ」

 アネモネはやり切れないよ、と言う。こんな発展している大都市でもそんなことがまかり通るのかと思う。

「ルイボスっていう名前も変わってるな。私は結婚がいやで逃げ出したんだ。昔からおやじになぐられて育ってまた似たような男の所に嫁がされそうになったから、三日三晩走ってこのアルベルスに来たんだよ」

「私より衝撃的だわ」

「はは、そうだね。ぶっ倒れている所にアネモネ姉さんに助けてもらったんだよ」

「そうだねぇ、やたらと駆け込み宿になっているねぇ、はは」

 駆け込み宿とは女性が暴力などに耐えかねて逃げ込める宿のこと、駆け込み寺だ。

「アネモネは?」

「私も似たようなもんだねぇ昔男に捨てられて、村にいたら辱めにあいそうになってねぇ。父と母とでアルベルスに逃げてきたのさ。ここは父と母と三人で立ち上げた業者だよ」

 そして、父と母は数年前に亡くなったという。

「私はましな方さね」


 アネモネは姉御肌気質の明るい人だ。

 プリムラはちょっと男の子っぽい感じ。言葉使いとか

 ネメシアは上品さが残るやわらかい感じ。少しお金持ちの家だったのかな


 みんなそれぞれつらい過去があり、それを乗り越えで生きているのね。私なんて大したことなかったわ。でもずっと掃除婦でいるのは夢がないのよね。


「ルイはまだ若いんだし、男を作ってはやくここから出て行きなよ!」

「プリムラはだって独身でしょ?どうして結婚しなかったの?」

「一度はしたんだよ。そしてここもお祝いされて出て行ったんだ。でも浮気されて追い出されたのさ。子供も取られた。結婚なんてごりごりだよ!」

「ここはみんな出戻りなのよ。私もアネモネもね」

 ネメシアが言う。

「え?みんな出戻り?そうなんだぁ」

「そうそう、だからあんたも行って帰っておいでよ。みんないるからね!」

「え~!でも帰れるところがあるのは安心するね」

「帰ってこない方がいいに決まっているさね」


 その日の夜はみんなと楽しく過ごせた。

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