理不尽な理由で上司に怒られた。

 近頃業績が伸び悩んでいるのは、私の売り上げが悪いからだと同僚達の前で散々詰られた。クビを切ることも示唆された。

 そりゃあ確かに私は万年寝不足で些細なミスも多いけれど、売り上げが悪いのは何も私だけのせいではない。何より、業績不振の一端となった太客とのコネクションを切られたのは、他でもない上司ではなかったか。自らの失態を棚に上げて私を槍玉に挙げるなんて、厚顔無恥にも程がある。

 私はヘトヘトの心身を励起して、どうにか自宅に帰り着いた。幸い、この日の終電には間に合ったので、私にしては比較的早めに帰宅できた。

 冷蔵庫に閉まってあった缶ビールを取り出し、空っぽの胃に注ぎ込む。こういう時は、飲んで忘れよう。しかし、幾ら酒に逃げても、理不尽な思いを洗い流すことはできなかった。

 ささくれだった心のまま、アナザーゲートを開く。ログイン画面がいつもと異なっていることに気づいた。荘厳なBGMは鳴りを潜め、真っ白な画面の真ん中にポツリと長方形の穴――異世界アナザーへのゲートが佇んでいた。その穴の中から、私を喚ぶ声がする。

『《アンネ》さん、貴女はアナザーゲートの世界への招待権を手にしました。今すぐアナザーへと向かいますか?』

《アンネ》というのは、語感が良いという理由から私がゲーム内で使っているハンドルネームだ。

 しかし、今日はゲームの記念日ではなかったはずだが、特別演出だろうか? なかなか粋なことをしてくれる。つい、頬が弛む。現実なんか忘れて、この先に行けたらどんなに楽なんだろう。私は二つ返事で頷いた。

「勿論。私をアナザーへ連れてって」

『了解しました。では、これよりアナザーへのゲートを開きます』

 パソコン画面が眩く光り輝く。長方形のゲートから光が漏れ出している。導かれるまま、私は光の先へと飛び込んだ。

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