VRMMO最強の槍使いがタイムスリップ先で死んで地縛霊になった

たげん

タイムスリップして死んだのはいいけど、地縛霊になる?

「一回死(ログアウト)んで出直しな!」

「おおっと! 今回も槍使いアリが優勝だぁ!」

 盛り上がる熱気と人々の歓声。ここは世界最大級のフルダイブ型バーチャルゲーム『コロッセオ』。

 ここでは世界中の人々が最強を目指し、戦いを繰り広げている。

「アリが出場してから二年半、なんと無敗! 誰かこの男を止めてくれ!」

 そう、俺はこのゲームで最強の槍使い。

 そのはずだった……。

 

 俺はいつものように優勝後ログアウトした。

 しかし、頭から機械を外した先に広がるのは戦場だった。甲冑を着た人々が、槍や日本刀で殺し合う本物の戦い。初めはバグで戦国ゲームとかに飛ばされたかと思った。でも、機械は外れているし、髪ボサボサで部屋着だし。もしかして、タイムスリップかもしれないと思った。                     普通の人間ならここで絶望するだろう。

けど槍使いで最強だった俺は、ここで槍無双していくラノベ主人公だと我ながら確信した。俺ならここで最強の槍使い将軍とか、あわよくば全国統一して遊んで暮らしてやる。

そんな甘い考えも、背中の痛みによって一瞬で消えた。槍が俺の胸を貫いた。

そりゃそうだ。戦場のど真ん中にいたら殺されるに決まってる。まあ、死んで異世界転生とかあるかもだし……。

ってあれ、俺の前に倒れている俺がいる。もしかして今俺、幽霊なのか? じゃあ幽霊になってからお迎えが来るのか? でもおかしい。一向に迎えがこない。どうやって死後の世界に行くんだ? 死ぬの初めてだから全くわからない。え、死んだらどうなるの?

そんな疑問とともに時間だけが過ぎて行き……。


そのまま十年くらい経過した。その間に小さい村もできた。そしてちょうど俺の居るところが村外れという事もあってか、お地蔵様もできた。お地蔵様の前考え事をする毎日。

その中でわかった事が三つある。

俺は心がおっさんになった事、死後の世界なんて無いのかもしれないこと、俺は俗に言う地縛霊になったと言うことだ。

地縛霊ってもっと未練とかあったり、死を受け入れられない人がなるイメージだったんだけど、地縛霊に確認できる人も居ないし、案外みんなこうやってなってるのかもしれない。なんで俺なんだ。どうして、

「どうしてだぁ! 神様、俺なんか悪い事しました? 俺をタイムスリップさせたなら何か理由とか有ったんじゃないんですか? 死んだとしても、来世欲しいです。異世界転生とか望まないから、せめて赤ちゃんとか普通に生まれ変わらせくださいよぉぉぉ!」

今日もいつものように現実逃避していた時、村から髷を結った男と一人の少年が歩いてきた。髷の男は綺麗な着物を着ていて二十代後半くらいだろうか、少年の方はつぎはぎでボロボロの着物を身につけている。そして、ボロボロの着物の少年は首を掴まれてた。

「お前、農民のくせに犬とか飼ってんじゃねぇ!」

 髷の男が思い切り顔を殴る。すると少年はお地蔵様の前にぶっ飛ばされた。しかし、少年は何も言わずやり返さない。

「黙ってんじゃねえよ!」

 横たわる少年の腹を蹴り飛ばす。

「本当につまらねぇな」

髷の男はその後もひとしきり蹴ると飽きたように去っていった。

しばらく少年を見ていたが全く動かないので、思わず声をかけてしまった。

「大丈夫か?」

 ま、聞こえるはずもないか……。

「見てないで、手を貸してください」

「ん? 今なんて言った?」

「だから見てないで、手を貸してくださいって言ったんです」

 ま、まさか、こいつ俺のこと見えてるのか。

「お前、俺のこと見えるのか?」

「見えてなかったら話してないですよ。早く手伝ってください」

「うおおおおおお!」

 俺は十年ぶりに人と会話できて思わず叫んでしまった。

「うるさいです。早く手を貸してください」

 そう言ってこちらを見る少年。

「あ、ごめんそれは無理だ。俺幽霊だから触れん」

「またまた、そんなこと言って……」

 少年が俺の手を取ろうとした瞬間すり抜けた。

「え……」

 目をぱちぱちさせ驚く少年。

「だから言ったろ俺幽霊だから」

 しかし、少年はすぐに冷静に戻った。

「分かりました。あなたが幽霊と言うのは認めます。じゃあ、あなたは何の幽霊なんですか?」

「それは分からん」

「じゃあ、生前は何をしていたとかは覚えているのですか?」

 それは、と言おうとした所で、言葉に詰まる。どう言ったものか。タイムスリップしてきたとも言えないし、何か……。

あ、そうだ!

「俺は槍の名手だった」

 そう言って少年にドヤ顔をキメる。

「そうですか」

 しかし少年は落ち着いて冷静に考え込む。

 なんか思ってた反応と違うな。

「もっとこう、教えてくださいとか、弟子にしてくださいとかないの?」

「僕は強くなりたい訳じゃないので」

 キッパリと言う少年。しかし疑問が一つ。

「あんなにボコボコにされといてやり返さないのか?」

「はい。僕が黙ってやられていれば、誰にも危害は及びません。だから弱くていいんです。それにあの男はこの村の地主なので、下手にやり返したら家族に迷惑をかけます」

 自分のことより人の心配か。自分が耐えればいいと思ってる悲しいやつだ。

「でも強くなれば何かあった時に役立つかもしれないだろ? 家族とかが危険な時とか」

 俺の言葉を聞き流し、明らかにめんどくさそうに少年は喋り出す。

「あー、はいはい、じゃあ教えてください」

 その言葉に少しイラッとする。

「なんかいやだな。お前の態度が気に食わん」

 この言葉に対し、少年はスラスラと皮肉が出てくる。

「そんなこと言って、嘘だから出来ないんじゃないですか? それにお前じゃなくて僕の名前はレンです」

 煽り口調で淡々と話す少年に腹がたった。

 このガキ! 大人を舐めやがって。

当たらないことを承知で、俺は拳を握り少年の頭を叩く。

「おら!」

 その刹那、視界が一瞬途切れた。

 あれ、ガキ、じゃなくてレンだったか。どこだ? あたりを見渡すが見当たらない。なんか視界が低い? そう思い下を見ると手が見えた。

え、なんで俺の手が……。


 それから何日か経って、俺は少年の後ろについて行くことで自由に動けることがわかった。

「すみません、これって完全に取り憑かれてますよね?」

「違う違う、後ろにいるだけ」

 村の畑道をレンと二人で歩いている。周りから見ればレン一人で歩いているはずだが、すれ違う人々が妙に大きく避ける。

「なんか僕、人から避けられてる気がするんですが……」

 言われてみると、確かに村の人が避けて通る気がする。というか明らかに避けている。

 絶対に自分のせいだが、この自由に動き回れる依代のレンを失いたくはない。ここは話題を変えるしか方法はない。

「あ、そういえばレン、犬飼ってるんだよな」

「え、言いましたっけ?」

 すぐに話題を切り替える事に成功した。こいつ案外チョロいな。

「まあ、ちょうど今から散歩しようと……」

 そう言ってボロボロの家の前に立ち止まると、レンは膝から崩れ落ちた。

「どうして……」

 レンは家の目の前にあった明らかに壊された形跡のある木の板を抱えている。犬小屋があったような、小さな屋根らしきものがある。

「それって犬小屋か?」

 俺の問いに小さく頷くレン。

「何でタロが……」

 そしてレンは急に立ち上がり走り出した。


「タロ! タロ!」

 レンは村中を犬の名前を呼んで探し回った。しかし、一通り村の中を探したが見当たらない。

 すでに日が暮れようとしている。

「少し休んだらどうだ?」

 レンに休むよう促すが、聞く耳を一切持たない。

 そして最後は村外れのお地蔵様のところまでたどり着いた。

「タロ! タロ!」

 レンが犬の名前を呼んでいると、お地蔵様の横に座っている人影が見えた。

「やっと来たか。飼い主がいなきゃ痛めつけ甲斐がねえからな」

 そこに居たのは、初めにレンを見た時にレンをボコボコに痛めつけていた髷の男だった。

その少年の隣の木にはタロのリードのような紐が括り付けられていた。

「タロ!」

 それを見たレンは思わず叫ぶ。幸いにもまだ何もされていないようだ。タロに駆け寄ろうとレンが走り出した時、髷の男は大きな声を上げた。

「動くな!」

 髷の男は木刀の様な木の棒を持ちゆっくりと立ち上がった。

「動くなよ。お前みたいな下民が犬なんて飼ってるのが悪いんだ。だからこの犬には飼い主の代わりにお仕置きしてやる」

 そう言うと髷の男は木の棒を大きく振りかぶりタロに向けて横に振った。

コンッとタロの横の木に当たる。髷の男はチッと舌打ちするともう一度振りかざす。

「次は外さねぇ」

 グシャっと鈍い音が響く。しかし、タロに木の棒は当たっていなかった。代わりにレンの背中に思い切り、当たっていた。けれどレンは声一つ漏らさない。

「こいつ自分の飼い犬庇って、やられてやがる。面白すぎるだろ。ご主人様がやられてどうすんだよ!」

髷の男は笑って馬鹿にしている。そして髷の男はレンを思い切り蹴り飛ばした。レンはお地蔵様の前まで飛ばされてしまう。

「邪魔者はいなくなった」

 そう言ってもう一度木の棒を振りかざそうした時、

「助けてください、どうか、タロだけは」

 それまで黙ってやられていたレンが言葉を発した。それにニヤけながら髷の男は答える。

「お前の生まれと力の無さを恨むんだな。悔しかったらやり返してみろよ」

 そう言って足元にあったもう一つの細い木の棒をレンの前に蹴り飛ばした。

「お前にはできないよな。俺はこの村の地主。手を出したらどうなるかお前が一番知ってるもんな」

 笑いながら喋る髷の男はもう一度木の棒を振りかざそうと構える。

「僕は……たい」

 レンが掠れ声で言葉を発する。

「なんか言ったか?」

 髷の男は一瞬手を止めてレンを睨む。

「僕は、強くなりたい! 大切なものを、守りたい」

 レンは拳を強く握り締め、目には涙が滲んでいた。

 言えるじゃんか。守りたいって、強くなりたいって。

「はっははは!」

 髷の男はこれまでにないくらい大笑いする。その間に俺はレンの横にしゃがんで話しかける。

「じゃ、明日から特訓するか」

「え?」

 急な俺の言葉に聞き返すレン。

「槍の使い方を教えてやる。だから今回は体借りるぞ」

「ちょ、待っ」

 レンの言葉より早く、体に入り込んだ。

 体に入り込めるのに気づいたのは出会った時だった。レンにゲンコツを落とそうとしてそのままの勢いで、体が当たった。そこで俺はレンの体に乗り移った。しかし乗り移ると、レンの体に負荷がかかり、次の日は全身筋肉痛になっていた。そのためそれ以来していなかった。

二回目の憑依。全身に激しい痛みが走る。レンはこれに耐えていたのか。全然弱くなんてないじゃんか。この痛み久しぶりだ。フルダイブした時と同じ感覚。感覚レベルを最大にして、神経を研ぎ澄ませ戦っていた、あの時の感覚。

俺は立ち上がり、木の棒を手に取る。懐かしい。俺も初めは木の棒一本の装備だったっけ。

立ち上がる俺に対し髷の男は余裕ぶったまま話す。

「お? やる気か? お前が手を出したら家族はどうなるか分かってんのか?」

 今の俺には全く関係ない事だ。

「おい! 髷!」

「ま、まげ?」

 間抜けな声を出す髷の男。

いい機会だ。ここで俺の力がどれくらい通用するか試してみるか。まずは最初期に覚える基本技『木突き』名前の通り木の棒で突くだけだが、どうか。

「木突き」

「何を言って……」

 髷の男が話終わるよりも早く、俺は間合いを詰める。そして、構えた木の棒で一気に腹を突く。カハッと血を吐く髷の男。腹を抱えながら驚く髷の男。

「そんな、早すぎて、見えない」

 見えない? そんなはずはない。これは槍の基本技。突くという動作をしているだけの技とも呼べないものだ。まさか俺を油断させる気か? そうはいかない。次は木の棒を横に振るだけの技『木斬』をしてみるか。

「木斬」

男の脇腹に木の棒を叩き込んだ。横に飛ばされ倒れる髷の男。

何でこいつは避けないんだ? こんな技、初心者でも避けられるぞ。

すると男は俺の方を見上げて命乞いを始める。

「許してください、すみません、助けて」

こいつやはり油断させる気だな。油断させて、木を叩き込んでくるはず。

すると予想通り、髷の男は持っている木の棒を掴み俺に叩き込んだ。

「油断しちゃダメだよ」

 髷の男はニヤけながら言ったが、俺が木の棒で防いでいたのを見た瞬間青ざめる。

 明らかに木の棒を振るのが遅すぎる。やはりこいつは実力を隠しているに違いない。

 念のため、もう一度『木突き』をした。今度は三連。流石に避けて力を出すだろう。

「木突き三連」

 男の腹に鋭い突きを3回叩き込んだ。すると男はお腹を押さえたまま、気絶してしまった。

 こいつ、俺が殺さないと確信して、わざと負けたのか。実力を最後まで隠し切られた。相当の使い手だ。


次の日から地主は心を入れ替え、とても優しくなったのだった。


 


 






























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